2019 Fiscal Year Research-status Report
単一スパイン内のオルガネラダイナミクス解析に基づく神経変性疾患の発症要因の解明
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19K23720
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
壷井 將史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20847123)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 小胞体ーミトコンドリア接触 / 大脳皮質 / 電子顕微鏡法 / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経変性疾患、特にアルツハイマー病患者数は年々増加の一途を辿り、80歳以上の高齢者の罹患率は20%を超え大きな社会問題となっている。神経変性疾患の発症要因として様々な仮説が提唱されているが、なかでも発症早期からミトコンドリア機能異常が見られることから、ミトコンドリアを初めとするオルガネラの機能異常は神経変性疾患の発症・進行と密接に関係する可能性が示唆されてきた。しかしながら、そもそも脳の「どの神経細胞」の「どのシナプス」でどのようなオルガネラ動態の変化が起きているかはよく分かっていない。そこで本研究では、3次元電子顕微鏡観察法と光学顕微鏡観察法を組み合わせたミクロな解析手法に基づいた単一スパインレベルでの解析を行い、オルガネラ機能異常 (特に小胞体- ミトコンドリア接触異常) がいかに神経変性疾患発症に寄与するかの解明を目指した。 本研究ではまず初めに、電子顕微鏡観察を用いた解析によりin vivoの大脳皮質興奮性ニューロンにおいて小胞体-ミトコンドリア接触の定量が可能かを検証した。電子顕微鏡観察により得られた数百枚もの画像ファイルをハイスループットに解析することのできる機械学習を用いた新しいプラットフォームを構築し、in vivoのニューロンにおける小胞体-ミトコンドリア接触量の定量に成功した。また、予備的ではあるが哺乳類細胞において小胞体-ミトコンドリア接触形成を担う責任候補因子をノックアウトすることでその接触量が低下傾向にあることを見出した。この結果は、本研究で構築したプラットフォームの妥当性をサポートするものである。また、小胞体-ミトコンドリア接触形成を担う責任候補因子のコンディショナルノックアウトマウス (F0) と神経細胞特異的にcreを発現するマウスとの交配に着手し、現在F1世代まで得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、(1)電子顕微鏡を用いた解析によりin vivoの特定の大脳皮質興奮性ニューロンにおいて単一スパインレベルでの小胞体-ミトコンドリア接触の定量が可能かを検証すること、(2)神経細胞特異的に小胞体-ミトコンドリア接触を低下させた変異マウスを作成することを目標とし研究を行った。その結果、(1)の項目について、数百枚もの電子顕微鏡観察画像における小胞体-ミトコンドリア接触量をハイスループットに解析出来る手法の確立に成功した。ただし、この結果は当研究室で既に保有していた電子顕微鏡観察画像を解析したものであり、当初計画していた特定の大脳皮質ニューロンに着目した単一スパインレベルでの小胞体-ミトコンドリア接触の状態を解析するには到らなかった。また、(2)の項目については当初の計画通り順調に交配・繁殖が進行している。以上から、本研究は当初の計画からやや遅れていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、電子顕微鏡観察画像における大脳皮質興奮性ニューロンの小胞体-ミトコンドリア接触量解析のハイスループット化に成功した。しかしながら、当初計画していた特定の大脳皮質ニューロンに着目した単一スパインレベルでの解析には到っていない。今後は、電子顕微鏡観察とともに蛍光顕微鏡観察も同時に行い、大脳皮質内の特定のニューロンにおける単一スパインレベルでの小胞体-ミトコンドリア接触量の解析を行う。本年度に確立したハイスループットな電子顕微鏡画像の解析手法は、今後の解析速度を加速させ本年度の研究の遅れを解消するものであると考えている。また、小胞体-ミトコンドリア接触異常がスパイン脱落等の神経変性疾患の病態発症に与える影響を調べるため、引き続き神経細胞特異的に小胞体-ミトコンドリア接触を低下させた変異マウスの交配・繁殖を行い、スパイン脱落に与える影響を調べる。
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Causes of Carryover |
本年度の研究計画として当初、電子顕微鏡観察および蛍光顕微鏡観察による特定のニューロンにおける単一スパインレベルでの解析を予定していた。しかしながら、電子顕微鏡を所有している共同研究先の選定に時間がかかり大脳皮質ニューロンの電子顕微鏡観察および蛍光顕微鏡観に必要であった試薬・器具は本年度購入しなかった。また、これらの実験に必要な妊娠マウスやマウスの飼育に必要な飼料やケージも購入しなかった。上記の実験は全て次年度に行い、次年度の使用計画は以下の通り。 電子顕微鏡観察のための試薬・実験器具費:800,000円、蛍光顕微鏡観察のための試薬・実験器具費:600,000円、妊娠マウスおよびマウス飼育のためのケージ、床敷、飼料費:800,000円
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