2019 Fiscal Year Research-status Report
一夫一妻の鳥類における優れた配偶者を巡る雌間競争の進化と機能の解明
Project/Area Number |
19K23764
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
西田 有佑 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任講師 (70845916)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 雌間競争 / 子育て / 鳥類 / モズ / 性淘汰 / 一夫一妻 |
Outline of Annual Research Achievements |
一夫一妻の動物は性的二型が小さく、実効性比にも雌雄の偏りがほぼないことから、性淘汰の影響は弱いと考えられてきた。しかし、むしろ強い性淘汰が働いたとしか思えない、雌雄の装飾形質や武器形質が多くの種で報告されている。申請者は、両親の子育てが繁殖成功に強く影響する一夫一妻の特性に注目し、雌雄のこれら二次性徴は育児能力の優れた異性を巡る同性内競争と相互配偶者選択で進化したと予想している。しかし、その実証例は極めて少なく、雌雄の二次性徴の機能と進化要因はほとんど分かっていない。 配偶者を巡る競争がどちらの性で激しくなるかは、子育てなどの繁殖投資量の性差で決まるとされる。この理論が正しければ、両親で子育てし、繁殖投資量の性差の小さい一夫一妻の種では、配偶者を巡る雄間競争と雌間競争、雌雄の相互配偶者選択が同時に起こることが予想されるが、検証例は非常に限られている。本プロジェクトでは、一夫一妻の鳥類モズを用いて、まずは配偶者を巡って雌同士が競争することを世界に先駆けて明らかにするための野外調査を実施した。その結果、モズでは体重が重たく栄養状態の良い雌個体ほど雄の縄張りへ早く渡来して、その雌は良い縄張りをもつ雄を独占できることが分かった。モズは雄の縄張り内で雌雄が協力して子育てするため、良い縄張りをもつ雄と配偶できれば、高頻度で子へ給餌することが可能になることがが申請者の先行研究で知られている。そのため、予測のとおり、両親の給餌が子の養育で欠かせない一夫一妻の鳥類モズでは、雌同士が優れた繁殖パートナーを巡って競争していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況は概ね順調である。計画通りに調査と解析は進んでいる。これまでの実績から、優れた雄の独占を巡って雌間競争が起こっていそうであること、特に雌の栄養状態の良さや体重の重さが雄の独占では重要な要因となりうることが明らかになっている。冬に繁殖する鳥類のモズでは、つがい形成期には餌資源が慢性的に枯渇しているため、栄養状態の良い雌個体だけがより早く雄のなわばりに訪問できたのかもしれない。また、体重が重いことは雄を巡る雌同士の物理的闘争で有利となる形質であろう。一夫一妻の動物は性的二型が小さく、実効性比にも雌雄の偏りがほぼないことから、性淘汰の影響は弱いと考えられてきたが、今回の申請者の研究成果から、両親の子育てが繁殖成功に強く影響する一夫一妻では、育児能力の優れた異性を巡る雌間競争が激しいことが分かってきた。今年度も計画通りに研究を進めることで、一夫一妻では同性内競争と相互配偶者選択が同時に起こり、雌雄の二次性徴の機能を世界に先駆けて解明することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
配偶者を巡る競争が雌間で激しく起こっているのならば、繁殖期のつがい形成期により強い雌間の攻撃性が発揮されるはずである。そこでこの予想を雌への剥製提示実験で検証する。繁殖期のモズの雌に対して同種の同性と異性、他種鳥類(ムクドリ、非捕食者)の3 つの剥製を提示して、雌の攻撃性(剥製への攻撃回数や接近距離など)を計測する。この実験をつがい形成期、抱卵期、育雛期に行う。モズの雌にとって同種の同性が競争相手ならば、同性の剥製に攻撃的に反応すると予想される。また、その攻撃性はつがい形成期(配偶競争が起こる時期)に最も高いだろう。さらに、攻撃的な雌ほど優れた繁殖相手の獲得で有利ならば、雌の攻撃性が繁殖相手の 育児能力(雛への給餌回数)や繁殖成功(雛の数や体重)と関係することが予想される。これらが分かると、雌の攻撃性が雌間競争の文脈で進化した性行動であることを一夫一妻鳥類で初めて実証でき、雌では強い性淘汰が働かないとする従来の考え方を一変させることができる。
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Causes of Carryover |
調査期間の後期にコロナウイルスの発生に伴い、当初予定の調査が全て敢行できなかった。その分、予算執行が予定通りに進まず、次年度使用額が生じた。調査結果の質と量については、コロナウイルスの影響が少なかった調査前期の実施したデータから十分かつ良質な議論が可能であった。緊急事態宣言の解除とコロナウイルスの収束により、次年度の研究計画は予定通り進めることが可能であり、次年度使用額は次年度に執行可能で、大きな支障はなく調査と研究を進められる。
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