2020 Fiscal Year Research-status Report
メタゲノムデータから解き明かす氷河シアノバクテリアの世界的な多様性
Project/Area Number |
19K23766
|
Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
村上 匠 国立遺伝学研究所, 情報研究系, 特任研究員 (00806432)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
Keywords | 氷河生態系 / クリオコナイト / シアノバクテリア / メタゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
氷河表面で形成される顆粒状の物体「クリオコナイト」は、シアノバクテリアを中心とした微生物群集であり、氷河生態系における一次生産者として重要な役割を担っている。2019年度に行った解析で、極域やアジア山岳域を含む広範な地域から収集したクリオコナイトメタゲノム配列から氷河シアノバクテリアのドラフトゲノム再構築に成功した。比較解析の結果、シアノバクテリアの系統や光アンテナタンパク質などの機能遺伝子の組成が極域とアジア高山域氷河とで異なることが判明した。一方で解析を進めるにつれ、シアノバクテリア以外の他の細菌についても、系統組成に地域差が認められた。 そこで2020年度はシアノバクテリアのみならずクリオコナイト細菌群集全体を対象としたメタゲノムデータの地域間比較解析を行った。その結果、機能遺伝子組成の面でも極域とアジア高山域氷河のクリオコナイトは明確に異なることが判明した。例えば、脱窒関連遺伝子を保有する細菌系統がアジア山岳氷河のクリオコナイトで優占している一方で極域のクリオコナイトではほとんど検出されないことが判明した。こうした機能遺伝子の地域性は、各地域の氷河環境(栄養塩濃度など)を反映していると考えられ、氷河生態系の地域的多様性を探る上で重要な知見となった。 今回の解析によって、アジア山岳氷河のクリオコナイトは従来広く研究されてきた極域のクリオコナイトと生物学的性質が大きく異なる可能性が示された。より詳細な細菌ゲノム情報の取得を目指すべく、一部アジアのサンプルについて、2020年度にサンプル数を増やしたメタゲノムシークエンスを実施した。現在、取得した配列データを基にドラフトゲノムの再構築や、機能遺伝子組成の詳細を解析中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
解析対象を当初の目標であったシアノバクテリアからクリオコナイト細菌群集全体に拡大したことによって、クリオコナイト細菌群集の地域的多様性がより明確となった。しかし、データの集計に追加の時間を要したため、本来予定していた研究期間での成果報告ができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
広域から採集したクリオコナイトの比較メタゲノム解析についてはデータの集計が概ね終了し、論文化の目処が立っている。研究期間を1年延長することで、国際誌への成果報告を遂行する。また、2020年度に追加シークエンスしたアジア山岳氷河のクリオコナイトについても、論文化に向けて解析を加速させていきたい。
|
Causes of Carryover |
英文校閲費や論文掲載費が本年度中に執行できなかったため、次年度に使用予定である。また、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、学会参加や研究打ち合わせのための出張予算も使用されなかった。次年度の感染状況は依然不透明だが、現時点で開催予定の学会があるため、予定通りに開催された際にはその参加費に充てたい。
|