2019 Fiscal Year Research-status Report
RhoA Rho-kinaseシグナルの個体脳神経回路における作用機構の解明
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19K23774
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
張 心健 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (10850430)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | Rho / Rho-kinase / 脳機能 / リン酸化 / ノックアウトマウス / 行動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、RhoA-“Rho-kinase”シグナルについて個体内での生理機能と分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度はRhoA-“Rho-kinase”シグナルが嫌悪学習・記憶に関与するかどうかを受動回避学習試験により検討した。Rho-kinaseの阻害剤であるFasudil(20mg/kg)を電気ショックの訓練をする15分前にC57BL/6Jマウスに腹腔内投与し、受動回避学習試験を行ったところ、学習・記憶能力が有意に低下した。一方、Fasudil(20mg/kg)を訓練した直後にC57BL/6Jマウスに腹腔内投与し、受動回避学習試験を行ったところ、学習・記憶能力に有意な差は認められなかった。次に、神経細胞種特異的にRho-kinaseの活性を抑制するため、creリコンビナーゼ依存的にRho-kinaseのドミナントネガティブ変異体を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV-Flex-DN-Rho-kinase)を作製した。AAV-Flex-DN-Rho-kinaseをAdora2a-creマウスの側坐核に注入し、受動回避学習試験を行ったところ、学習・記憶能力が有意に低下した。一方、AAV-Flex-DN-Rho-kinaseをDrd1-creマウスの側坐核に注入し、受動回避学習試験を行ったところ、学習・記憶能力に有意な差は認められなかった。さらに、受動回避学習試験において、電気ショック訓練後のマウスの側坐核を採取し、Rho-kinaseの基質であるMYPT1のリン酸化レベルをウェスタンブロットにて解析したところ、電気ショック負荷により側坐核におけるMYPT1のリン酸化レベルが有意に上昇した。 また、Rho-kinaseの2つのアイソフォームRock1とRock2のダブルコンディショナルノックアウトマウスを作製し、バリデーションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度の研究計画の通りに実験を進めた。 Rho-kinaseの阻害剤であるFasudilの前処理で、マウスの嫌悪記憶の形成が障害されることを確認した。Cre依存的にRho-kinaseのドミナントネガティブ変異体を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV-Flex-DN-Rho-kinase)の作製を完了した。このAAV-flex & Creシステムを用い、ドーパミンD2受容体を発現する中型有棘神経細胞 (D2R-MSN) 特異的にRho-kinaseの活性を抑制したところ、マウスの嫌悪記憶の形成が障害されることを確認した。ドーパミンD1受容体を発現する中型有棘神経細胞 (D1R-MSN) 特異的にRho-kinaseの活性を抑制したところ、マウスの嫌悪記憶形成が障害されないことを確認した。したがって、Rho-kinaseはD2R-MSNにおいて、嫌悪記憶形成に関与することが示唆された。また、受動回避学習試験の電気ショック訓練の際に、Rho-kinaseの基質であるMYPT1のリン酸化が上昇することを確認した。よって、嫌悪記憶形成の際、Rho-kinaseの活性上昇が関与することが示唆された。以上の結果により、Rho-kinaseと嫌悪記憶の関係が明らかになった。 また、我々の研究室では最近マウス脳線条体のスライスにKClやNMDAによる刺激を行い、14-3-3などのリン酸化タンパク質結合タンパク質を用いリン酸化基質を濃縮した。CaMKⅡの基質候補として、RhoGEFであるARHGEF2やRhoGAPであるARHGAP21などを同定した。現在、これらのRhoGEFやRhoGAPの個体内でのリン酸化について、検証を進めている。 また、Rock1, Rock2のダブルコンディショナルノックアウトマウスの作製を完了した。行動解析を行うため、このマウスの大量繁殖を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
Rho-kinaseが嫌悪学習・記憶に関与するかどうかをさらに検証するため、Rock1とRock2のダブルコンディショナルノックアウトマウスを用い、側坐核のD1R-MSNとD2R-MSN特異的にRock1とRock2をノックアウトし、受動回避学習試験を行う。また、このノックアウトマウスを用い、脳内側坐核におけるRho-kinaseシグナル伝達経路を調べる。 受動回避学習試験において、電気ショック負荷により側坐核におけるRho-kinaseの活性( MYPT1のリン酸化)が上昇する結果とFasudilが嫌悪記憶形成を障害する結果を得たため、今後は受動回避学習試験において、Fasudilが側坐核におけるRho-kinaseの活性上昇を阻害するかどうかを検証する。 脳線条体のスライスで同定されたRhoGEFやRhoGAPのリン酸化について個体内での検証を行う。例えば、受動回避学習試験において側坐核におけるRhoGEFやRhoGAPのリン酸化レベルをウェスタンブロットで検証する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:令和元年度の一部の試薬・消耗品に関して前年度に購入した試薬・消耗品の残分でまかなうことが出来たため、次年度使用額が生じた。 使用計画:マウスの購入費用や抗体・試薬の購入費用に使用する。 本研究で得られた成果の公表のため論文投稿費用や成果を発表するための学会参加費用に使用する。
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Research Products
(1 results)