2019 Fiscal Year Research-status Report
大規模単一神経活動記録による自発活動と触知覚神経活動の関連の探索
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19K23788
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
上森 寛元 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90845900)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 神経科学 / 2光子カルシウムイメージング / 触知覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画の遂行にあたり、1年目では主に、①広域Ca2+イメージングにおける安定した皮質広視野像の取得方法の確立、②広視野2光子顕微鏡を用いた触知覚刺激(後肢刺激)時のマウスの大脳皮質広域神経活動の記録、③知覚課題のセットアップの立ち上げと課題の成績記録テストを行った。 ①に関して、広視野観察では、顕微鏡の高速でのレーザー走査が必要となる。そのため、単一面積あたりの励起光が極めて短くなり、それはSN比の低下を引き起こす。そこで、ベースラインの明るいCa2+センサーを広視野に高発現させる必要がある。本研究では、アデノ随伴ウイルスを用いてセロタイプやCa2+センサーの種類などを検討し、安定してSN比よく15,000個程度の神経細胞の活動を同時記録できるようなセンサー導入方法を最適化した。 ②では、広域にCa2+センサー(GCaMP7.09)を導入したマウスを顕微鏡下にセットし、後肢刺激を与えながらの広域Ca2+イメージングを行った。刺激直前の自発活動と刺激直後の神経活動を比較解析し、後肢刺激への応答性の高い神経細胞群を同定した。その細胞群の分布は、体性感覚野の後肢領域以外にも確認された。後肢刺激直前直後での比較解析により、大部分の神経細胞において活動レベルは後肢刺激によって上昇することがわかったが、刺激に対して顕著に活動レベルが上昇する細胞は比較的少数であることが分かった。 ③では、マウスに後肢刺激を与えた際に舐める行為(Lick)をさせるような知覚課題のセットアップを立ち上げ、マウスのトレーニング及び課題のテストを行った。様々な刺激強度の後肢刺激を行い、適切にLickをした回数を記録し、成功率を算出した。その結果、予想された通り、微弱刺激に対する成功率が低く、強度が上がるにつれ知覚の安定性が向上するような傾向が確認された。なお、本実験におおよそ3週間を要することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1点目として、広域での神経活動を単一神経細胞レベルで大規模に記録するための手法を整えた。研究実績の概要で述べたような広視野観察時の問題を解決するため、セロタイプとセンサーに関する検討を行った。セロタイプとして、AAV1・AAV8・AAV9を検討し、センサーとして、GCaMP6s・GCaMP6f・jGCaMP7b・GCaMP7.09を検討した。結果として、AAV1では広域の神経細胞に発現が広がらないこと、AAV9は広域の神経細胞にセンサーが発現することがわかったが発現がスパースであることが分かった。AAV8は広域に発現し多くの神経細胞にセンサーが発現することから、セロタイプに関してはAAV8が最適であると判断した。センサーに関しては、GCaMP6sやjGCaMP7bにおいて明るい像が得られることがわかったものの、撮像した結果SN比が悪くニューロピルの混ざりこみも顕著であることがわかり、棄却した。一方で、GCaMP7.09は、SN比よく撮像できることがわかり、細胞体への発現の限局も他のセンサーより良好であることが分かったため、GCaMP7.09が最適であると判断した。以上の検討により、安定して広視野イメージングができる基盤が整った。 2点目として、微弱な電気刺激による後肢刺激を行いながらの広視野2光子Ca2+イメージングを行い、刺激間の自発活動と刺激直後の神経活動の比較解析を行うための一連の解析コードを整えた。なお、自発活動時と刺激直後の神経細胞の活動の1:1の相関係数を計算することで、両活動時に協調して活動する細胞群は必ずしも一致しないことが分かった。 3点目として、マウスに知覚課題を行うためのセットアップの立ち上げと、記録テストを行った。マウスのトレーニング戦略を決定し、テストのプログラムなどの調整も完了した。実際にテストを行い、予備データを取得するところまで進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
広視野2光子顕微鏡下での知覚課題中の神経活動の記録に主眼を置く。まず、解析する上である神経細胞がどの脳領域に属しているのかを調べる手段として、イントリンジックイメージングを行う。開口窓手術後のマウスに麻酔下でひげ刺激・前肢刺激・後肢刺激等を行う。応答した領域とマウスの標準脳を照らし合わせることで、マウスの脳領域の同定を行う。イントリンジックイメージングの立ち上げが完了した後、広視野2光子顕微鏡下に知覚課題のセットアップの立ち上げを行う。知覚課題中の広域での神経活動を広視野2光子顕微鏡によって大規模に記録する。成功トライアルと失敗トライアルそれぞれの神経活動の比較解析を行い、どのような脳領域の細胞群が知覚に重要な活動を行っているのかを調べる。特に、失敗トライアルにおいてそもそも後肢刺激に対する応答が生じているのか否かを解析する。知覚には後頭頂皮質などの関与も知られているが、体性感覚野を含めた様々な脳領域において、知覚状態(課題の成功率)に対応して各領域の神経細胞群の活動レベルがどのように変化するのかを解析する。また、その一連の神経活動において、神経細胞同士の1:1の活動の相関係数を計算する。それにより、どの領域に属する細胞同士が協調して活動を行っているのかを解析する。知覚課題のトライアル間の自発活動においても同様の解析を行い、自発活動時の広域での神経活動の相関マップと後肢刺激時の広域での神経活動の相関マップの比較解析を行う。比較解析は主成分分析による次元削減を用いた解析なども用いることで、自発活動時の神経細胞群の活動と後肢刺激時の神経細胞群の活動の類似性・相違性を明らかにする。その際、神経活動の時系列データに対するトラジェクトリー解析も行うことで、刺激後の時間タイミングに応じて活動の類似性・相似性が変化するのかを解析し、自発活動と後肢刺激時の神経活動の関連を探索する。
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Causes of Carryover |
2019年度に行ったウイルスの検討や知覚課題のセットアップの立ち上げは、所属研究室において既に得られている知見をもとに検討を行ったため、使用額として抑えることができた。2020年度は、2019年度での検討を踏まえた改良を進めており、その検討に研究費を充当する。2020年度の実験に関しては、ウイルスの新規検討と知覚課題実験を進めるため、ウイルスやマウスなどが主な使用用途となる予定である。また関連して、マウスの開口窓手術のための消耗品に対しても予定通りの使用が予想される。さらに、知覚課題中の神経活動の解析のためのソフトウェア・ハードウェアも整えている段階であるため、申請時の予定通り充当する予定である。
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