2019 Fiscal Year Research-status Report
Wntシグナル経路を介した薬物代謝酵素の変動が精神神経疾患治療に与える影響の解明
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19K23810
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
榊原 有季子 名城大学, 薬学部, 助教 (40848503)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | Wntシグナル経路 / グルクロン酸転移酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では、Wnt/β-catenin(β-cat)経路介したグルクロン酸転移酵素(UGT)の発現変動を解明することを目的として検討を行った。 はじめに、ヒト肝癌由来のHuH-7細胞に対し、Wnt/β-cat経路を活性化する代表的な薬物である塩化リチウム(LiCl)とCHIR-99021、さらにWnt/β-cat経路を抑制するスリンダクを曝露し、UGT1Aとβ-catの標的遺伝子であるLGR5のmRNA発現変動を検討した。UGT1A1、UGT1A6およびLGR5のmRNA発現量はLiClおよびCHIR-99021の曝露により有意に増加した。また、LiClおよびCHIR-99021曝露によるUGT1A6 およびLGR5 mRNAの増加は、スリンダクの共曝露により抑制された。一方で、UGT1A1 mRNA 発現量の増加はスリンダク共曝露により抑制されなかった。これより、UGT1A6 mRNA発現量はWnt/β-cat経路を介して変動する可能性が示されたとともに、UGT発現に対するWnt/β-cat経路の寄与は分子種によって異なることが示唆された。 次にUGT1A6 mRNAの常在的発現が認められているヒト神経由来のT98G細胞にLiClを曝露し、UGT1A6 mRNAの発現変動を検討したが、UGT1A6 mRNA発現量の増加は認められなかった。そこで、T98G細胞での常在的なLGR5 mRNA発現量を定量したが、検出限界以下であり、また、LiCl曝露によってもLGR5 mRNA発現量は増加しなかった。したがって、T98G細胞ではLiCl曝露によるWnt/β-cat経路の活性化が生じず、これはUGT1A6 mRNA発現量が増加しなかった要因の一つだと考えられた。HuH-7細胞とT98G細胞間でのWnt/β-cat経路活性化における差異の要因を解明するためにはさらなる検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、培養細胞を用いたWnt/β-cat経路介したUGTの発現変動に関して、予定していた検討は概ね実施できた。HuH-7細胞を用いた検討では、UGT1A6 mRNA発現量がWnt/β-cat経路を介して変動する可能性が示された。また、T98G細胞ではLiClによるWnt/β-cat経路の活性化が生じず、UGTの発現変動が認められないことを明らかにしたが、細胞間におけるWnt/β-cat経路の活性化の差異に関するメカニズムを解明するには至っていない。これらの研究成果から得られた知見に関して学会発表を行った。来年度では、T98G以外の神経由来細胞やラット肝および脳での検討を行うことにより、Wnt/β-cat経路を介したUGT発現変動の臓器差についても解明を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度では、Wnt/β-cat経路経路を活性化させる代表的な薬物を用い、UGTの発現変動について検討を進めた。次年度では、精神神経疾患に対し臨床的に使用されており、Wnt/β-cat経路を活性化させることが報告されている薬物として、クロザピンやハロペリドールを用いたUGTの発現変動の解明を行う。また、培養細胞を用いた検討によりUGTの発現変動が認められた薬物をラットへ投与し、ラット肝および脳でのUGT発現とWnt/β-cat経路の関係についてmRNAのみならず酵素活性レベルでの解明を進める。
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Causes of Carryover |
肝および脳でのWnt/β-cat経路を介したUGT発現変動を解明するため、第一に培養細胞を用いて検討を進めた。しかし、T98G細胞ではLiClによるWnt/β-cat経路の活性化が生じなかったことにより、T98G細胞を用いたWnt/β-cat経路を介したUGTの発現変動とそのメカニズムに関する検討として予定していた薬剤等の消耗品を使用しなかったため。 次年度は、T98G細胞以外のヒト神経由来細胞を用いた検討を追加し、またラット脳を用いたin vivoでの検討を計画しており、この検討での消耗品として使用する。
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