2019 Fiscal Year Research-status Report
癌細胞Ca2+シグナルに関連した薬剤抵抗性と治療標的分子の同定
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19K23923
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
開 勇人 岩手医科大学, 医歯薬総合研究所, 任期付助教 (50847358)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | カルシウムシグナル / 癌細胞 / ライブイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
始めに、癌細胞内におけるカルシウムイオン濃度変化(カルシウムシグナル)のライブイメージング、特に観察を行っている培養シャーレへの投薬を伴う手法を確立した。癌細胞は、37℃・5% CO2の条件に保たれ、投薬以外の外部刺激は経時的なイメージングに反映されないことを確認した。カルシウムイオンセンサーである蛍光物質の退色は、レーザー照射とともに生じる。蛍光物質の時間あたりの退色割合を算出することでベースラインを推定することで、細胞内で起こっているカルシウムシグナルをより正確に理解することが可能となった。 この手法により、胃癌細胞株において、抗癌剤誘導性カルシウムシグナルのライブイメージングに成功した。抗癌剤を投与し、5秒、30秒ごとの計測を10分間あるいは2時間継続し、タイムラプス観察を行った。その結果、抗癌剤の投与直後にカルシウムイオン濃度の急激な上昇が誘導されることが示唆された。投与直後のカルシウムイオンの上昇以外は特異なシグナルは認められなかったが、上昇したカルシウムイオン濃度はそのまましばらく維持される傾向がみられた。一方、浸透圧ストレスによってカルシウムシグナルが誘導された可能性が考えられたため、抗癌剤と等張の食塩水を用い、抗癌剤誘導性のカルシウムシグナルと比較した。その結果、抗癌剤で有為に大きなカルシウムイオン濃度の上昇があることを確認した。さらに、解析の結果、遺伝的な背景が変わらない薬剤耐性株とその親株においてもカルシウムシグナルの波形は異なり、薬剤抵抗性とカルシウムシグナルの関連が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、第一の課題は、『癌細胞における抗癌剤誘導性のカルシウムシグナルを観察することであった。そのため、はじめに癌細胞におけるカルシウムイオン濃度変化の測定を経時的に行える実験系の立ち上げを行った。蛍光試薬の選定や導入方法、抗癌剤の投与方法、温度の維持や蛍光観察の設定などを検証し、癌細胞におけるカルシウムイオン濃度変化を測定に成功した。抗癌剤ごとに異なるカルシウムシグナルが誘導されるとは予想していたが、抗癌剤の種類によってはカルシウムシグナルを全く誘導しないものもあった。その中で抗癌剤誘導性のカルシウムシグナルを観察できたことの意味は大きい。また、抗癌剤誘導性カルシウムシグナルを解析したところ、細胞株によってカルシウムイオン濃度の上昇幅や排出速度などに特徴が見られた。特に、薬剤耐性株とその親株においてみられたカルシウムシグナルの特徴は、癌細胞の薬剤抵抗性メカニズムの一つである可能性が考えられる。このように、本研究の前半部分となる課題において、一定の成果と次の目的である、薬剤抵抗性の癌細胞の治療標的分子の手がかりを得た。したがって、本研究の進捗は概ね良好であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
がん細胞の細胞小器官ごとに蛍光タンパクを導入し、詳細なカルシウムの放出タイミングなどを解析する計画を立てていたが、これは敢えて行わない。カルシウムシグナルの形状から考察すると、①ほぼ同時にカルシウムイオンの細胞質への放出が起こっていること、②抗癌剤誘導性カルシウムシグナルは単一のピークをもち、関与するカルシウムチャネル・ポンプの数が少ないことが予想されるからである。一方、カルシウムの上昇・排出速度に関しては細胞株ごとに特徴があるため、カルシウムチャネル・ポンプを中心に遺伝子発現とタンパク発現を網羅的に解析することで、後半の課題である薬剤抵抗性をもつ癌細胞における治療標的の探索を行う。具体的な手法としては、real-time PCRやRNA-seqを用い、カルシウムシグナルの波形や薬剤抵抗性の獲得に影響を与えたと考えられる遺伝子発現を同定し、逆相タンパクアレイを作成して同定された遺伝子から行われるタンパク発現を解析する。
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Causes of Carryover |
解析した結果を受け、計画していた遺伝子組み換えを行わないことを決めたので、その試薬を購入せず、次年度使用額が生じた。2020年度に行う遺伝子・タンパク発現解析に用いる試薬の購入費用に充てる。
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