2019 Fiscal Year Research-status Report
遺伝的多様性を有する癌細胞間の環境適応勝者の決定機構の解明
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19K23929
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
山盛 智子 (森田智子) 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 特任研究員 (10767750)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 染色体不安定性 / がん / 細胞競合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、染色体不安定順応性モデルを用いて、遺伝的多様性を有する癌の細胞競合に関与する因子・シグナル経路を比較解析し、癌の高度な環境適応能の詳細を明らかにすることを目的としている。 染色体不安定順応性モデルとして異数体化細胞を樹立した後、オミックス解析を行った。異数体化細胞は樹立過程で多数の細胞が死滅し、異数体化には大きな細胞ストレスを伴うことが示された一方、生き残った細胞は主に4倍体の核型で存在しながら分裂・増殖することが明らかになった。また、異数体化細胞と親細胞の遺伝子発現や変異、転写活性化領域の構造を比較するためのRNAシークエンス、Exomeシークエンス、ATACシークエンスをそれぞれ実施した。RNAシークエンスの結果から、発現変動のあった遺伝子群は異数体化細胞の大きな細胞形態を維持するために必要な遺伝子発現の変化であると推測している。しかしながら、遺伝子変異や転写活性化領域の構造に顕著な差はみられず、異数体化細胞の環境適応には遺伝子変異や転写活性化領域の構造変化は伴わないと考えられる。 特定の条件下では異数体化細胞でのみATP量の顕著な減少が見られた。そして、同条件下における代謝産物の変化を見るためのメタボローム解析を行った結果、ある代謝経路に変化があった。以上の結果から、異数体化細胞は、遺伝子変異や転写活性化領域の構造変化は起こさずに増殖し、代謝経路を変化させることで環境に適応していると考えられる。異数体化細胞の高度な環境適応の一端を明らかにしつつかり、次年度の研究でさらにメカニズムを明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は異数体化細胞の樹立とクローン株の作製を行った。その後、定常状態におけるRNAシークエンス、Exomeシークエンス、ATACシークエンスを行い、Aurora-Bキナーゼ阻害剤AZD-1152による異数体化には遺伝子変異や転写活性化領域の構造変化は伴わない事を明らかにした。 また、異数体化細胞でのみATP量が顕著に減少する培養環境を同定し、メタボローム解析を実施したところ、同条件下でのみ変化する代謝経路を見出した。これらの結果を取得できたことは本研究が順調に進展していることを示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度のオミックス解析で得られた結果をより詳細に解析するため、変動のあった代謝経路の主要タンパク質のウエスタンブロッティングや低分子化合物による阻害実験を行っていく。 標的分子をある程度絞り込んだ段階で、親細胞と異数体化細胞を混合培養する細胞競合実験を実施する。それぞれの単独培養条件と混合培養条件で細胞増殖・細胞死の割合・代謝の変化などの比較解析を行って、遺伝的多様性を有する癌細胞間の環境適応勝者の決定機構の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
採用決定から機関内の発注締切りまでの期間が短く、学会参加も無かったため、使用金額が少なかった。 次年度は初年度の研究成果を精査するための各種定量試薬、蛍光プローブ、抗体などを購入する予定がある。また、すでに参加を決めた学会があり、旅費としての使用も予定している。
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