2019 Fiscal Year Research-status Report
腸内細菌叢由来LPSと循環器疾患における慢性炎症との関連解明研究
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19K23944
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉田 尚史 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (00846321)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 腸内細菌 / リポ多糖 / lipid A / 循環器疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸内細菌種はヒト腸管内に約500種類存在しているが、どの腸内細菌が持つ菌体毒素リポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)が、どのように宿主に炎症を惹起するのかについては不明な点が多い。LPSの構造は菌種によって異なり、その構造の差異が生理活性/炎症惹起能(=質)を規定する事から、従来の質量ベースのLPSの多少(=量)だけでは、LPSの生体内生理活性を正しく評価できておらず、慢性炎症やそれに続く炎症性疾患の発症・進展との関連を語るに不十分である事が分かってきた。 そこでLPSの生理活性/炎症惹起能(=質)を規定するとされるlipid Aのアシル基の数を反映した、生体試料中LPSの新規定量法の基盤を質量分析計を用いて確立する事とした。まずは、炎症惹起作用が強く最も普遍的に研究に用いられているアシル基が7本のサルモネラ菌と、アシル基が6本の大腸菌のlipidAを質量分析で測定する系を確立するために、LPSを酢酸で加水分解する事でlipid Aを得た。それぞれ単独で質量分析計(LC-MS/MS)で解析する事で、2 菌固有のlipid Aのpeakを得た。その後、生体試料として糞便中に含まれる2菌のlipid Aの定量系を確立するために、糞便上清からlipid Aを精製する手法を確立した。その糞便上清をLC-MS/MSで測定したところ、6本ないし7本のアシル基のpeakを捉える事ができた。これらにより、糞便中からのlipid Aの構造解析に成功した。 従来、質量で語られていたLPSであるが、その構造と炎症惹起能(質)に着目した新たな定量法を質量分析計を用いて確立することで、これまでのLPSによる慢性炎症の概念を大きく覆す研究となる。循環器疾患を含む慢性炎症性疾患における炎症の起点としての腸内細菌叢由来LPSの概念を確立し、新たな抗炎症治療法の提案に繋げたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画に基づき、本研究の達成目標の一つとして挙げていた、質量分析計を用いて、lipid Aのアシル基の数(=炎症惹起能、質)を反映した、生体試料中LPSの新規定量法の基盤確立を達成できた。糞便中に存在するアシル基を6本、あるいは7本持つlipid Aについて相対定量を行う系を確立したため、今後、アシル基を4本ないし5本持つ腸内細菌の代表例であるBacteroides菌からLPSを単離し、質量分析でのlipid Aの解析系の確立を行う。将来的に可能であれば血中のLPS(lipid A)の組成を解析する系を確立したい。 加えて腸管に存在するLPSが、どのように、どの程度、血中に移行し慢性炎症の温床となっているのかについての検討も並行して行っており、予備実験では、6本のlipid Aを持つLPSをマウスに腹腔内投与したところ、敗血症を起こして死亡するが、4本ないし5本のlipid Aを持つLPSをマウスに腹腔内投与しても敗血症を起こさない事を確認している。この結果は、どの腸内細菌由来のLPSが血中に移行するかにより、生体での炎症反応が大きく異なる事を示唆しており、引き続き生体において循環器疾患進展の原因となる慢性炎症を引き起こすLPS/lipid Aのプロファイルを同定したい。またTLR4ノックアウトマウスでは、6本のlipid Aを持つLPSを投与しても敗血症を起こさなかった事から、LPSは基本的にはTLR4を介した生体作用を持つものと考えられた。 以上より、現在までの進捗状況は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究経過により、質量分析計により糞便からのlipid Aの構造解析の基盤が構築された。今後は、4本、ないし5本のアシル基を持つlipid Aの解析も行い、糞便に存在する腸内細菌LPS/lipid Aの組成を、アシル基の数により分類する事で、腸内細菌由来LPSの質と冠動脈疾患や心不全との関連を見出したい。腸メタゲノム解析により、どの菌がどの程度lipid A生合成に関与する遺伝子を保有しているかも患者個々に同定できる事から、腸メタゲノムデータも併せて解析し、ヒト腸管において炎症惹起に関わる腸内細菌由来LPS/lipid Aを解析、検出したい。 加えて、腸管に存在するLPSがどのように炎症起点となっているのかを積極的に解明していきたい。具体的には、マウス腸管内にLPSを投与したり、LPSを経口で摂取させた時に、そのLPSがどの程度血中に移行し、炎症を惹起するかについて解明したい。これにより、代謝性エンドトキシン血症と腸内細菌由来LPSとの直接的な関連の証明を行い、究極的には腸から代謝性エンドトキシン血症を改善させる事で、慢性炎症性疾患の予防、治療を目指す。現在も腸内細菌叢由来のLPSに着目した研究は少なく、引き続き、腸内細菌叢由来の種々のLPSが、循環器疾患の発症・進展にどのように関わるかについて、LPSの量と質に着目しながら関連機序を解明し、その研究成果を臨床に還元するための研究基盤を確立したい。 これまでの研究の進捗状況を鑑みると、研究計画を大きく変更する必要性は乏しく、当初の計画のように遂行していきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、本来の想定よりも順調に、質量分析計により糞便からのlipid Aの構造解析の基盤を構築する事ができた。今後、4本、ないし5本のアシル基を持つlipid Aの解析も行い、糞便に存在する腸内細菌LPS/lipid Aの組成を、アシル基の数により分類する事で、腸内細菌由来LPSの質と循環器疾患との関連を探索する。同時に、腸管に存在するLPSの生体における挙動を明らかとしたい。 腸内細菌叢由来のLPSに着目した研究は未だ少なく、腸内細菌叢由来の種々のLPSが、循環器疾患の発症・進展にどのように関わるかについて、LPSの量と質に着目しながら関連機序を解明したい。 以上の次年度の研究に、請求助成金を使用予定である。
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Research Products
(2 results)