2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒト大脳・中脳オルガノイドを用いた小児難治性てんかんの病態解明
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19K23952
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
絹川 薫 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (90846677)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 小児難治性てんかん / Mowat-Wilson症候群 / 脳オルガノイド / ゼブラフィッシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
小児難治性てんかんは多くが胎生期の中枢神経系の発生異常によって生じる。その多くは発生メカニズムが十分に解明されておらず、故に根本的な治療法も存在せず、病態解明が早急に必要とされている。小児難治性てんかんの一つであるMowat-Wilson症候群(MWS)は、出生直後より、精神発達遅滞やてんかん、小脳症など、様々な中枢神経症状を呈する重篤な遺伝病であり、ZEB2(zinc finger E-box-binding homeobox 2)遺伝子の欠損によって生じることが知られている。これらヒト脳疾患の研究には、げっ歯類を用いた病態再現が試みられてきた。しかしヒト脳はげっ歯類の脳よりも複雑な層構造を有しており、ヒト脳発生過程を再現し、疾患の病態解明を行うのは困難であった。最近、in vitroでヒトES/iPS細胞からヒト大脳や中脳の構造を再現した細胞塊(オルガノイド)が樹立されている。本研究は、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集で得たZEB2欠損ヒトES細胞から樹立したヒト大脳・中脳オルガノイド及びZEB2欠損ゼブラフィッシュを用いて、MWS患者における中枢神経発生の過程を再現し、ZEB2遺伝子がヒト中枢神経発生の過程で果たす役割を探るとともに、ZEB2欠損によりMWSが生じる機序を探ることを目的とする。当該年度では、樹立した中脳オルガノイドの質量分析法、single-cell RNA sequencing(scRNA-seq)によるタンパク質の網羅的解析を行った。これらの解析により、オルガノイドには神経細胞をはじめとする様々な成分が存在することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では当初の計画通り、質量分析法やscRNA-seqによって、オルガノイドのタンパク質の網羅的解析を行った。質量分析法では、脳幹や小脳、基底核に特異的な発現変動遺伝子を検出することができた。scRNAseqではオルガノイドに神経成分をはじめ、様々な細胞集団が含まれていることが明らかになった。MKI67(Marker Of Proliferation Ki-67)やPLAGL1(PLAG1 Like Zinc Finger 1)を発現する神経前駆細胞を含む集団、前脳および中脳マーカーであるOTX2(Orthodenticle Homeobox 2)やドパミン神経前駆細胞のマーカーであるNR4A2(NR4A2)、LMX1A(LIM Homeobox Transcription Factor 1 Alpha)を発現する集団がみられた。またグルタミン作動性神経細胞のマーカーであるSLC17A6(Solute Carrier Family 17 Member 6)を発現する集団、後脳の分化に関与するZIC1(Zic Family Member 1)、ZIC4を発現する細胞集団も確認できた。オルガノイドには中脳成分だけではなく、脳幹成分も含まれていることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はZEB2欠損ヒト脳オルガノイドに対してscRNA-seq解析を行い、ZEB2欠損に伴って生じる細胞構成の変化を解析する。またZEB2欠損ゼブラフィッシュを樹立し、遺伝子発現や形態の観察により中枢神経発生におけるZEB2遺伝子の機能を解明する。本研究計画が当初の計画通りに進まない場合、ZEB2欠損ヒト脳オルガノイドにおけるオリゴデンドロサイトの分化、形態を評価する。マウスにおいて、ZEB2はオリゴデンドロサイトの分化に関与しているとする研究報告がある。ZEB2欠損ヒト脳オルガノイドでもRNA-seq解析により、オリゴデンドロサイトのマーカーであるMBP(myelin basic protein)の発現低下を認めている。これを手掛かりに、MWSで観察される小脳症やてんかんの原因解明を試みる。
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Causes of Carryover |
当該年度では、脳幹オルガノイドのscRNA-seqの解析を中心に行っていたこともあり、未使用額が生じた。今後は、ZEB2欠損脳オルガノイドのscRNA-seq解析を行うとともに、ZEB2欠損ゼブラフィッシュの樹立、qPCRによる遺伝子発現解析は形態の観察により中枢神経発生によるZEB2遺伝子の機能解明を試みる。
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[Journal Article] Brainstem organoids from human pluripotent stem cells2020
Author(s)
Nobuyuki Eura, Takeshi K. Matsui, Joachim Luginbuhl, Masaya Matsubayashi, Hitoki Nanaura, Tomo Shiota, Kaoru Kinugawa, Naohiko Iguchi, Takao Kiriyama, Canbin Zheng, Tsukasa Kouno, Yan Jun Lan, Pornparn Kongpracha, Pattama Wiriyasermkul, Yoshihiko M. Sakaguchi, Riko Nagata, Tomoya Komeda, Naritaka Morikawa, et al.
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Journal Title
Frontiers in Neuroscience
Volume: -
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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