2019 Fiscal Year Research-status Report
脊髄Ⅹ層におけるノルアドレナリンの作用機序と慢性疼痛の病態解明
Project/Area Number |
19K24008
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大橋 宣子 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (70706712)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 慢性疼痛 / 脊髄Ⅹ層 / ノルアドレナリン |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性疼痛患者は難治性の疾患であり、その機序解明と治療法の確立は極めて重要な課題である。一般的に慢性疼痛の発症には末梢だけでなく脊髄の形態学的、機能的変化も関与すると考えられており、脊髄ニューロンを含む神経系の興奮性が亢進した状態、すなわち可塑性変化として認められる。脊髄は形態学的所見によりⅠからⅩ層に分類され、末梢からの情報が各層に入力されるが、慢性疼痛時にはこれらの経路に脊髄レベルの可塑性変化が生じており、具体的にはⅠ層の長期増強現象 (LTP)、Ⅰ・Ⅱ層のAβ線維の軸索発芽、Ⅴ層のwind up現象などがあり、それぞれが層特異的に慢性疼痛の発症に関与している。その中でも代表的治療薬である抗うつ薬はノルアドレナリン (NA)の再取り込みを抑制するが、特に脊髄II層のNAを増加させることで鎮痛効果を発揮すると考えられてきた。一方、Ⅹ層は中心管周囲の灰白質として知られており、末梢から入力された情報はこのⅩ層へも到達した後、上行し視床、大脳皮質にある体性感覚野へ至ることが知られている。また近年、特にⅩ層はNAが最も多く分布することが明らかになり、X層が慢性疼痛の発症に大きく関与している可能性が示唆されたが、これまでにⅩ層の機能を検討した報告はない。そこで本研究ではまず慢性疼痛モデルラットとして炎症性疼痛モデルラットを作製し、疼痛モデルを確立した。そして炎症性疼痛モデルラットを用い、Ⅹ層におけるNAの作用をin vitro脊髄スライス標本からのパッチクランプ法を用いた電気生理学実験により検討した。その結果、NAは脊髄Ⅹ層の抑制性ニューロンにおける微小抑制性シナプス後電流 (mIPSC)の増強を認めた。つまり、Ⅹ層ではNAの放出を増加させ抑制性シナプス伝達を活性化することで、鎮痛効果をもたらしている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度では、まず慢性疼痛モデルラットとして炎症性疼痛モデルラットを作製し、疼痛モデルを確立した。そして炎症性疼痛モデルラットを用い、Ⅹ層におけるNAの作用をin vitro脊髄スライス標本からのパッチクランプ法を用いた電気生理学実験により検討した。その結果、NAは脊髄Ⅹ層の抑制性ニューロンにおける微小抑制性シナプス後電流 (mIPSC)の増強を認め、Ⅹ層ではNAの放出を増加させ抑制性シナプス伝達を活性化することで、鎮痛効果をもたらしている可能性を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度では、まず電気生理学実験ではin vivo脊髄標本を用い顕微鏡下に電極を脊髄Ⅹ層に誘導し、脊髄表面にNAを灌流し、細胞外記録を用いて後肢刺激による活動電位の発生頻度の変化を観察する。また免疫組織学実験では、脊髄横断スライスを作製し、NAを灌流した後、痛み刺激により発現することが知られているリン酸化extracellular signal-regulated kinase(pERK)抗体を用いて免疫染色を行い、光学顕微鏡下にⅩ層におけるpERK陽性細胞数を計測し、pERKの発現の変化を観察する。慢性疼痛モデルラットにおいて、活動電位の発生頻度の増加やpERK陽性細胞数の増加を認めた場合、Ⅹ層が慢性疼痛の発症に関与していることが示唆される。 また本研究は、本来慢性疼痛モデルラットとして坐骨神経を結紮したchronic constriction injury (CCI)モデルラットを予定していた。しかし慢性疼痛には、神経障害性疼痛や炎症性疼痛が含まれるため、神経障害性疼痛モデルとしては坐骨神経を結紮したchronic constriction injury (CCI)モデルラットを、炎症性疼痛モデルとしては足底にComplete Freund’s adjuvant (CFA)を注入した炎症モデルラットを作製することとし、今後は両者の反応を検討する予定である。 さらに2020年度では、これらの研究成果を発表するために、予算を国内外の学会参加や論文投稿の費用に使用していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初より、本研究は慢性疼痛モデルを用いてin vivo, in vitro脊髄標本からの電気生理学実験、免疫組織学実験を行うことを予定していた。そのため2019年度では慢性疼痛モデルの確立とin vitro脊髄標本からの電気生理学実験を行い、脊髄Ⅹ層ではNAの放出を増加させ抑制性シナプス伝達を活性化することで、鎮痛効果をもたらしている可能性が示唆された。 2020年度では、まず電気生理学実験ではin vivo脊髄標本からの電気生理学実験を行い、免疫組織学実験では、痛み刺激により発現することが知られているリン酸化extracellular signal-regulated kinase(pERK)抗体を用いて脊髄横断スライスの免疫染色を行い、光学顕微鏡下にⅩ層におけるpERK陽性細胞数を計測し、pERKの発現の変化を観察する。そのため、実験動物や試薬費用などの物品費が必要である。さらに2020年度では、これらの研究成果を発表するために、国内外の学会参加や論文投稿の費用に使用していく予定のため、旅費や英文投稿費が必要である。そのため次年度使用額が生じた。
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