2021 Fiscal Year Research-status Report
時間分解探針増強ラマン分光による時空間極限における原子層物質のフォノン計測
Project/Area Number |
19K24684
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
熊谷 崇 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 准教授 (30704796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 純 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 助教 (10907687)
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Project Period (FY) |
2021-03-12 – 2024-03-31
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Keywords | フォノンダイナミクス / 超高速時間分解走査トンネル顕微鏡 / 探針増強ラマン分光 / 低次元物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は原子レベルの時空間極限において低次元物質のフォノンダイナミクスを直接観察するための超高速時間分解走査トンネル顕微鏡の開発を行った。具体的には低温走査トンネル顕微鏡と10フェムト秒、780ナノメートルの超短パルスレーザーとを組み合わせた独自のシステムを構築し、ポンプ-プローブ法に基づく超高速時間分解測定を実装した。その時間分解能を検証する実験として、銀探針と銀単結晶表面によって形成される走査トンネル顕微鏡のナノ接合に光照射することで発生する局在表面プラズモン共鳴の位相緩和時間を計測した。パルス光励起によってプラズモニックナノ接合に生じる光誘起トンネル電流がポンプ-プローブ光の相対的な時間(遅延)に依存して変化することを見出した。この光誘起トンネル電流の干渉自己相関信号を計測することで励起された局在表面プラズモン共鳴の干渉に起因する特徴を観測した。実験データのフィッティング解析から局在表面プラズモンの位相緩和時間(25フェムト秒)という超高速電子ダイナミクスが計測できていることを確認した。また、銀単結晶表面にエピタキシャル成長させた酸化亜鉛超薄膜の探針増強ラマン分光を行い、計測感度の向上によってフォノンのストークス・反ストークスラマン信号を計測することに成功した。これにより酸化亜鉛超薄膜の局所的なフォノン励起を原子スケールの超高分解能で調べる実験が可能となり、光およびトンネル電子による励起によって起こる局所加熱の計測を行った。さらにストークス・反ストークスラマン分光と走査トンネル顕微鏡の局所的な電子分光と組み合わせることで観測された局所加熱において重要な役割を果たしている電子-格子相互作用を実空間で調べることにも成功した。これらの研究成果については論文投稿中・準備中となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに低温走査トンネル顕微鏡にフェムト秒レーザーを独自に組み合わせた新しい計測システムを構築し、プラズモニックナノ接合における局在表面プラズモン共鳴の超高速ダイナミクスの計測に成功するなど時空間極限における先端計測の開発に大きな進展が見られている。超高速時間分解走査トンネル顕微鏡は本研究の目的である原子レベルの時空間極限において低次元物質のフォノンダイナミクスを直接観察を達成するための技術的な重要課題である。また、探針増強ラマン分光の高感度化によって酸化亜鉛超薄膜のストークス・反ストークス信号の検出にも成功している。これらの成果は本研究における技術的課題をほぼ予定通りに解決できていることを示しており、研究計画はおおむね順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに超高速時間分解走査トンネル顕微鏡の開発、探針増強ラマン分光によるストークス・反ストークス信号の超高分解能検出など未踏の計測技術において大きな進展が見られた。今後はこれらの先端計測によって低次元物質のフォノンダイナミクスを原子レベルの時間的・空間的分解能で直接観察する実験を進める。特に、原子レベルで制御された低次元物質を超高真空の環境で作製する技術を開発し、上述の先端計測を適用できるモデル系を得ることが重要な課題となる。グラフェン、グラフェンナノリボン、シリセン、六方晶窒化ホウ素、酸化物超薄膜などを先行研究を参考にしながら金属単結晶表面にエピタキシャル成長させる予定である。様々な低次元物質を計測することにより、それらの化学的性質の違いに起因する多彩なフォノンダイナミクスとそれに基づく物性発現の機構解明を目指した研究を展開することを目指す。
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Causes of Carryover |
2021年度に高感度探針増強ラマン分光用の可視分光器(Andor・Kymera328i)の購入を予定していたが、測定系を工夫することで既存の分光器でも必要な感度を得ることができた。そのため予定を変更し、本研究で重要となる低次元物質を作製するための超高真空装置をより効率的に構築するための予算を2022年度に持ち越した。これによって研究課題の遂行を加速できると考えている。
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