2022 Fiscal Year Research-status Report
時間分解探針増強ラマン分光による時空間極限における原子層物質のフォノン計測
Project/Area Number |
19K24684
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
熊谷 崇 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 准教授 (30704796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 純 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 助教 (10907687)
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Project Period (FY) |
2021-03-12 – 2024-03-31
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Keywords | 超高速時間分解走査トンネル顕微鏡 / 探針増強ラマン分光 / コヒーレントフォノン / 酸化物超薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は昨年度開発した超高速時間分解走査トンネル顕微鏡によって酸化亜鉛超薄膜のナノスケールコヒーレントフォノン分光測定を行った。低温走査トンネル顕微鏡と10フェムト秒、780ナノメートルの超短パルスレーザーとを組み合わせたポンプ-プローブ法に基づく超高速時間分解測定によってトンネル接合における局在表面プラズモンの位相緩和時間(25 fs)を観測できることを昨年度中に確認していた。当該年度は研究課題である時空間極限における原子層物質のフォノン計測に取り組むため、銀(111)単結晶表面にエピタキシャル成長させた酸化亜鉛超薄膜の計測を行った。酸化亜鉛超薄膜は研究代表者のグループで過去に開発したreactive deposition法【J. Phys. Chem. C 118, 27428 (2014)】によって作製した。酸化亜鉛超薄膜上で超短パルス光誘起トンネル電流の干渉自己相関測定でコヒーレントな格子振動に由来する変調信号を観測した。干渉自己相関測定で得られた信号に含まれる周波数成分をフーリエ解析によって抽出し、探針増強ラマン分光による測定と比較することで、超高速時間分解走査トンネル分光で観測された変調信号が酸化亜鉛超薄膜のフォノンモードに帰属されることを確認した。さらに、走査トンネル分光による局所的な電子分光、ナノスケールコヒーレントフォノン分光、探針増強ラマン分光を並行して測定することで、原子スケールの電子状態の不均一性、平衡状態におけるフォノン、局所的な光励起に伴う非平衡なフォノンダイナミクスの相関を解析できることを示した。ナノスケールのコヒーレントフォノン分光は、電子と格子の超高速ダイナミクスをシングルナノメートル、フェムト秒のオーダーで直接観察できる新しい実験手法である。この成果はScience Advancesに発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超高速時間分解走査トンネル顕微鏡の開発はほぼ計画通りに行うことができ、酸化物超薄膜の超高速フォノンダイナミクスの計測に成功するなど、研究は順調に進行している。ナノスケールコヒーレントフォノン分光と走査トンネル分光とを組み合わせた計測によって、電子状態とフォノンダイナミクスにおける原子スケールの不均一性に関する微視的な知見が得られるなど研究計画時に期待した結果が得られてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに超高速時間分解走査トンネル顕微鏡の開発、探針増強ラマン分光によるストークス・反ストークス信号の超高分解能測定など未踏の計測技術において大きな進展が見られた。当該年度はナノスケールコヒーレントフォノン分光という新しい計測法を示すこともできた。今後は開発した手法を様々な低次元物質へと応用していくことが重要な課題となる。グラフェン、グラフェンナノリボン、シリセン、六方晶窒化ホウ素、酸化物超薄膜など金属単結晶表面にエピタキシャル成長させる予定である。様々な低次元物質を計測することにより、それらの化学的性質の違いに起因する多彩なフォノンダイナミクスとそれに基づく物性発現の機構解明を目指した研究を展開することを目指す。
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