2021 Fiscal Year Research-status Report
International Child Protection and the UN Convention on the Rights of the Child - From an Interdisciplinary Perspective
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19KK0030
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西谷 祐子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30301047)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田切 紀子 東京国際大学, 人間社会学部, 教授 (10316672)
小川 玲子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (30432884)
木村 敦子 京都大学, 法学研究科, 教授 (50437183)
原 めぐみ 和歌山工業高等専門学校, 総合教育科, 准教授 (90782574)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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Keywords | 子の保護 / ハーグ条約 / 子の連れ去り / 子の権利 / 国際私法 / 学際研究 / 移民 / 児童の権利条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画では,2021年度には,西谷及び4名の研究分担者らがドイツや英国等に渡航して子の監護に関する調査研究を行うほか,各国の移民政策と子どもの保護についても調査研究を行うことを予定していた。昨年度に引き続いて,今年度もコロナ禍のために海外に渡航できず,様々な制約があったが,可能な限りオンライン等で補うことで研究を進めた。第一に,西谷は,法制審議会・家族法制部会の参考人として共同親権及び面会交流等について報告するため,ドイツ及び英国・豪州の研究者と実務家にオンラインにて聞き取り調査を行い,子の連れ去り事件の処理にとっても参考になる重要な情報を得た。第二に,日本において,子どもの保護のために行政機関と民間団体(NGO)がどのように協働しているかを知るため,日本の多様な実務家(明石市,FPIC,大阪家庭裁判所ほか)にも聞き取り調査を行い,実務での苦労や問題点についてきわめて貴重な示唆を得た。日本における外国人の子どもの保護については,日本での滞在や国籍取得のみならず,学校教育や生活保護が保障されず,特にコロナ禍の下で大きな影響を受けていることが分かった。第三に,日本における子の奪取に関するハーグ条約の運用について,最高裁令和2年4月16日決定を素材として研究を進め,日本の現行制度の問題点について考察を深めたほか,諸外国における実務との比較も行い,立法論としての提言も行った。いずれも児童の権利条約に基づく国家実行のあり方に反省を迫るものである。これらの研究の成果は,個別の論考として公表してきたほか,コロナ禍と家族生活に関するウェビナーなど,様々な場で発表する機会を得てきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度もコロナ禍のために海外渡航ができなかったが,オンラインでの聞き取り調査やウェビナーなどを組み合わせることで,本事業の研究は,おおむね予定どおり進捗している。第一に,子の奪取に関するハーグ条約については,日本の裁判例を渉猟して研究を進め,諸外国と比較する中で,次第に日本の制度の問題点と改善すべき点が明らかになってきた。2021年5月に西谷がスイス比較法研究所で報告した際にも,この点が指摘された。また,ハーグ条約事件のためのドイツのメディエーション機関であるMiKKの日本担当者が来日した際には,面談を行い,実務上の工夫や日本と関係する事件の特殊事情などについて,心理学の視点も踏まえて意見交換を行うことができた。上記のように,独英豪の親権制度及び面会交流の意義についても聞き取り調査を行ったことで,2020年度に木村と西谷が行った文献調査を補充する形で,充実した研究を行うことができた。第二に,外国人の子どもの保護については,上記のように日本における行政機関と民間団体(NGO)の協働による子どもの保護の現状と課題について調査を進めた。2021年6月に西谷がテルアビブ大学主催のウェビナーにて,コロナ禍と家族関係の変容に関する基調報告を行った際には,特に移民の困窮や退去強制の問題,子どもの保護のあり方,ウクライナでの代理懐胎による出生子の置き去り問題などが議論された。2021年9月に西谷は,ヨーロッパ法研究所主催のウェビナーにて,血縁によらない親子関係と出生証書の扱いについても報告しており,2016年から参画しているハーグ国際私法会議の親子関係・代理懐胎プロジェクトと合わせて,親子関係全般の法的規律のあり方と外国人の子どもの保護についても多角的に検討を進めてきた。このように,当初予定していた形態とは異なるが,本研究課題の事業の遂行として十分な成果を挙げてきているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の進捗状況を踏まえて,最終年度に当たる2022年度においては,総括として,研究成果を取りまとめて発表していく予定である。また,2022年度には,海外渡航も可能になっているものと予想されるため,ドイツその他の国に渡航して,現地での意見交換やセミナーへの参加,研究成果の発表等を行うことを予定している。具体的に検討すべき課題としては,以下のものが挙げられる。第一に,現在進行中の日本における離婚後の親権及び面会交流等に関する法改正の動向について考察を進めるとともに,諸外国と比較した日本の特徴や社会・文化的背景の相違などについて検討を行う。特に欧米では,離婚数及び未婚家族の増加によって,家族法制が多様化しており,共同親権及び共同養育の考え方も大きく異なっている。この点については,法学のみならず,社会学及び心理学の成果を踏まえて,検討を深める予定である。第二に,子の連れ去りに関するハーグ条約について,日本の裁判例の蓄積が進んでおり,子の常居所の概念や執行方法,子の返還命令の変更,面会交流,養育費の支払い,裁判外の和解合意の拘束力などに関する新たな論点が出てきていることから,これらの個別の論点についてさらに検討を進める。特に養育費の支払いについては,国内法制として,裁判外の調停合意にも執行力を付与する方向で法改正がなされる予定であり,国境を越えたハーグ事件についてどのように扱うかは,今後検討する必要がある。第三に,外国人の子どもの保護については,コロナ禍の影響が大きく,どのような問題が生じており,どのような解決策が必要とされるかは,今後の検討課題として残されている。この点についても,諸外国の状況と比較しながら,心理学及び社会学の知見を踏まえて,さらに検討を進めることにしたい。
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Causes of Carryover |
2021年度においても,コロナ禍のために,当初予定していた海外渡航を行うことができなかった。そのため,旅費として計上していた経費が使用されずに残っている。他方,2022年度においては,比較的自由に渡航できるようになると想定されるため,海外への渡航費を使って研究を進めることを予定している。
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Research Products
(15 results)