2021 Fiscal Year Research-status Report
国際規模の先端量子ビーム利用による次世代回折構造研究
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19KK0132
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
西堀 英治 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10293672)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笠井 秀隆 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80634807)
河口 彰吾 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (10749972)
PAL RUMPA 筑波大学, 数理物質系, 助教 (30842265) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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Keywords | 放射光 / X線自由電子レーザー / 熱電変換材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、デンマーク・オーフス大との国際共同研究により、中型と大型の世界最高性能の放射光施設とXFELを利用した物質科学研究を推進し、日本の次世代放射光計画とSPring-8アップグレード計画が立ち上がった時、世界最先端の構造計測を実現する技術とノウハウを獲得する。実験データの測定には、筑波大とオーフス大で立ち上げたドイツPetra-IIIの回折装置、オーフス大が管理するスェーデンMAX-IVのDanmaXビームライン、国際共同研究メンバーで2021年までビームタイムを獲得したSPring-8、XFEL SACLAを利用する。原子スケール構造計測の将来を国際連携の知を集約して開拓すことを目指している。 この2年間、コロナウィルス感染症対策のため、双方が相手国を報目することができなかった。オーフス大学のグループは、2021年度にSPring-8の2つの実験課題で各約5日間のマシンタイムを前期、後期、合計20日のマシンタイムを確保していた。これらのマシンタイムはすべて、国際共同研究として筑波大グループがSPring-8に行って実験を行った。この実施を円滑に行うために、試料の郵送での受け渡しと、1回の実験で1テラバイトを超えるデータの保管、転送を行うための環境整備を2020年度に実施した。2021年7月で終了となった課題の延長についても、オーフス大学のグループと協議し、2022年7月までの1年間の必要なマシンタイムを共同で申請し、採択された。2021年10月以降も、オーフス大学のグループがSPring-8に行けない状況が続いたため同様の形での共同研究を本年度の最期まで継続した。2年目には2件の国際会議での共同発表や、共同研究の論文がNature Communications誌に掲載されて筑波大学とオーフス大学でプレスリリースされるなど、複数の成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウィルス感染症対策に伴う研究の進め方を模索して、少し研究の進捗が悪化したと感じる部分があったが、この年度の下済みにより、今年度になって複数の成果が得らえるようになった。特に、修士の研究者高橋がオンラインとメールベースの共同研究で積極的な交流を行い、Nature Communications誌の共著者や、国際会議発表の共著者に名を連ねたことは、想定外の若手育成の成果に繋がったと考えている。尚、高橋はこうした研究に感化され、博士課程への進学を決定した。また、その研究成果で、筑波大学物理学学位プログラムリーダー賞を受賞し、つくばスカラシップ研究奨学生にも選抜された。2019年にオーフス大に留学し、本プロジェクトの期間中にXFEL SACLAでの国際共同研究に尽力した博士課程の藤田も2022年3月に無事に学位を取得し、筑波大学物理学専攻長賞を受賞した。尚、藤田は2021年度より学振特別研究員に採択されている。 放射光計測についても原子スケールの動的な動きや欠陥構造を観測する3次元差分対相関関数(3D-ΔPDF)のSPring-8を利用したデータ測定法、解析法をほぼ確立した。これは、オーフス大学の成果(Phys. Rev. B 2020)や国際共同研究の成果(Nature Communicaitons 2021)から明らかである。この手法が測定から解析法まで含めて確立されたことは、本研究の国際交流で得られた大きな知見である。 物質科学の成果としてはInTeで見つかった単純な構造内のDisorder構造の発見が挙げられる。2種類の元素から構成され、原子サイトも3個しかないInTeの2個のサイトを持つInの片側の、10%の元素のみがDisorder構造を有することの発見は、物質の構造安定性において、こうした特異な状態があり得る新しい例の提案である。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍のせいであるが、大型施設利用を基軸とした国際共同研究をオンライン、オンデマンドで進めるための技術と知見を磨く機会となった。これを2年以上推進したことにより、日本側、相手国側両方で、実際に対面でやるべきことは何か?オンラインで進めることは何か?が明確化したと感じている。また、時系列でその量が増加の一途をたどるデータを円滑に送るためのデータ転送技術などこれまでは注目していなかった技術の利用も促進された。コロナ禍の後の研究では、上述したコロナ禍で培った技術と、対面を組み合わせることでより効率的かつ密接な国際共同研究が可能になると感じている。 ヨーロッパでは実験や学会のための出張が通常に近い形で復活してきているため、デンマークのグループは来日することを望んでいる。また、私の研究室で博士研究員や、助教、博士課程の学生らはオンラインでのデンマークのグループとの交流を通じで、先方を訪問しての研究の実施を心待ちにしている状況にある。加えて、オーフス大学との交流は当初はPI2名とそのグループを対象としていたが、オンラインの気軽さにより、別のPIを巻き込んだ研究へとも発展してきている。具体例を挙げれば、SPring-8でSPring-8 IIに向けた研究として進められている100KeVの超高エネルギーX線を利用したX線回折実験の国際共同研究などがあげられる。 日本への海外研究者の来日も徐々に可能となってきているため、今後が待ち遠しくて仕方がない状況にある。また、学生や博士研究員を含めた大規模な交流ができると期待している。
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Causes of Carryover |
前年度からのコロナウィルス感染症対策のためにデンマークやドイツ、チェコへの出張が取りやめになったことが最大の理由である。遠隔やWebを通じた交流を続けてきて、実際の実験への参加や、現地での議論の必要性がより強くなった部分が多数見られている。 海外交流が可能となり次第、代表者と笠井助教の長期のデンマーク滞在と、スウェーデンでの実験を計画している。加えて、Heガス供給が困難になったこと、データ量の増加によりデータ保存媒体やデータサーバーが必要になったことなどで国際共同実験にかかる費用も増加している。今後はそれらの費用の増額分を使用計画への追加して国際共同研究を進めていく。 交流を続けて行って海外からの輸入が難しい試料が一定量存在することがわかってきた。こうした場合に購入したり、その試料自体を大学で評価する状況も生まれてきている。今後、往来が困難な場合にはこのような部分をさらに強化して進めていく。
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