2020 Fiscal Year Research-status Report
Integrating Computational and Experimental Approaches for New Paradigms in Molecule Synthesis
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19KK0150
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
渡辺 賢二 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (50360938)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 道大 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (10629695)
恒松 雄太 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (30629697)
岸本 真治 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (40814330)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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Keywords | Diels-Alder反応 / 天然物生合成 / 酵素反応機構 / [4+2]環化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペリ環状反応は有機合成化学において広く利用されてきたにもかかわらず, 生化学 (酵素化学) の分野おいては, その反応が一次代謝経路中に長らく見出されずにいたことから非常に希少な存在であった。酵素触媒による有機化学変換反応は, 主にイオン反応とラジカル反応に大別されるが, Diels-Alder反応 (以下DA反応とする) はそのどちらにも属さず, 電子環状遷移状態を経るペリ環状反応機構によって二つの炭素-炭素共有結合形成反応を一挙に進行させる。有機合成の中で環化分子の構築や炭素骨格の構造に大きな変化を与えるため, 生体内DA反応を触媒する酵素"Diels-Alderase (DAase)"に極めて高い興味が持たれ, 実在性を証明する研究が盛んに行われてきた。 我々はこれまで糸状菌由来二次代謝産物の生合成における, DAaseについて研究を行ってきた。その中で抗HIV活性を有する化合物, Sch210972 (1) の立体選択的な閉環反応に関わるDAase, CghAを見出した。CghAは, 1のオクタリン環形成においてendo選択的な分子内Diels-Alder (IMDA) 反応を触媒する。しかしながら現在までにCghAを含むIMDA反応を触媒する酵素の構造的知見に関する報告は少ない。我々は, DAaseにおける基質認識・立体選択的環化・生成物阻害回避機構について, その分子基盤を解明することを目的に研究を行った。 今回, CghAによるIMDA反応の詳細なメカニズムについて, CghAの分子構造・速度論解析および計算化学によるエネルギー計算から, 合理的な知見を得ることができた。また, CghAの構造に基づいた部位特異的変異導入により, exo選択的IMDA反応を触媒するDAaseの創出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Diels-Alder反応は、位置および立体選択的に炭素―炭素結合を形成することができるため、有機合成化学分野において広く用いられてきた反応です。一方で微生物や植物が産生する化合物の中には、Diels-Alder反応によって構築されると考えられる化合物が数多く見られることから、天然にもDiels-Alder反応を触媒する酵素、すなわちDiels-Alderase (DAase) が存在すると示唆されてきました。世界中でそのDAaseの探索が行われ、現在までに様々なDAaseが発見されてきました。しかしながら、DAaseに関する詳細な分子機構、すなわち反応の駆動力や位置および立体選択性の発現要因について詳細に解明された報告はありませんでした。今回研究グループは、この酵素的Diels-Alder反応の触媒メカニズムを、酵素―化合物の共結晶構造をもとに明らかにすることに成功しました。さらに酵素の基質結合部位に変異を導入することで、非天然型の立体化学を有する生成物を与える改変型酵素の作出も達成しました。また、Diels-Alder反応の特性上問題となり得る生成物による酵素反応阻害をDAaseがどのように回避しているかについて、酵素中における基質の化学構造と計算化学による遷移状態の自由エネルギーの解析により、合理的な説明を与えることができました。これらの結果は、DAaseの構造基盤に革新的な知見を与えただけではなく、より高性能高効率な触媒活性を有するDAaseの創出、すなわちDAaseのエンジニアリングに関する今後の重要な指針となりました。 本成果は、本学薬学部とUCLAとの共同研究成果です。触媒化学分野において権威のある国際化学雑誌『Nature Catalysis』(Impact Factor: 30.471) 電子版に2021年3月1日付けで掲載されました。
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Strategy for Future Research Activity |
有用分子の供給では、生産効率、立体選択性の制御が必要不可欠である。今回扱う反応の共通点は、分子骨格に新たに不斉炭素原子を作り出し、同時に立体選択性が高度に制御されているという点である。有機合成的手法ではこのようなつくりわけには、豊富な経験と高度な技術が必要となることが多く、酵素反応を用いる利点は多い。そこで以下に示した(1)~(3)の背景により本研究を着手するに至った。(1)自然(天然)は医薬品を作れる潜在能力がある。特に立体化学に高い選択性を有する点が化学合成法よりも優れており、生産された化合物が生物活性を持つことへと繋がっている。しかし、従来法では生物活性をもつ新たな天然物の獲得は限界に近づいてきており、新たな方法論の構築が必要である。(2)生物のゲノムを解読する技術が発達したため、ゲノム中の遺伝子情報をもとにして、薬のシードの可能性をある程度は予測できるようになってきている。(3)「京」などスパーコンピュータをはじめとするパソコンの急速な高性能化により、ひと昔前では非常に困難であった計算コストの大きな量子化学計算や分子動力学計算が高速、高精度で可能になってきている。これにより、基質分子の3次元分子モデリング、活性化エネルギーの定量化、酵素と基質のドッキングシミュレーションなどが可能となり、前もって酵素と基質の相性を推測できるようになってきている。このような予測に挑戦する。
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Research Products
(12 results)