2021 Fiscal Year Research-status Report
フォルニカータ生物群におけるミトコンドリア関連オルガネラの機能進化の解明
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19KK0185
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
橋本 哲男 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50208451)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久米 慶太郎 筑波大学, 医学医療系, 助教 (70853191)
千葉 洋子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 上級研究員 (70638981)
神川 龍馬 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40627634)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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Keywords | ミトコンドリア関連オルガネラ(MRO) / プロテオミクス / フォルニカータ / 嫌気環境適応 / 機能進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験研究においては、MROの精製とプロテオミクス解析の対象とするフォルニカータ6生物種のうち、Retortamonas以外の生物種に関する解析を行った。 解析が最も進んでいるKipferliaについては、R2年度に行ったiTRAQ法によるMROのプロテオミクス再解析について得られたデータを詳細に検討した。その結果、確実にMROに存在すると考えられるタンパク質として62種を同定した。TrichomonasのMROに存在することが既知でKipferliaにも存在することが確認されたKipferliaのタンパク質は49種であった。そのうちKipferliaでのMROタンパク質は32種であり、残りの30種のMROタンパク質の約2/3がKipferlia特異的と考えられる機能未知タンパク質であった。一方、MROタンパク質として同定されたSCSaに関して、抗KipferliaSCSa抗体の作製に成功し、間接蛍光抗体法により抗KipferliaCPN60抗体との共局在を示すことにより、確かにMROタンパク質であると断定することができた。 Dysnectesについては、MROのマーカーとなるシャペロニン(CPN60)に特異的な抗CPN60ペプチド抗体を用いて、Kipferliaと同様な方法により、20回の細胞分画実験を行いプロテオミクス解析用のサンプルを準備した。 一方、Roger研においては、R2年度に引き続き、Chilomastix, CarpediemonasにおいてKipferliaと同様の方法でMROのプロテオミクス解析を進めるための準備を行った。 解析研究においては、R2年度に引き続きミトコンドリア・MRO関連タンパク質の一部についてホモログを探索し分子系統解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R3年度には、Dysnectesに関して、密度勾配遠心による細菌除去と浸透圧ショックによる細胞破砕の後、密度勾配超遠心による細胞分画を行うという作業を20回繰り返すことにより、iTRAQ法によるプロテオミクス解析の準備を整えることができた。R4年度当初にプロテオミクスを実施できる状況にある。SCSaについてMRO局在を示す実験が成功し、同様の実験のためのプロトコルを確立することができた。こうしたことから、実験的研究の進捗状況は順調であるといえる。 プロテオミクス解析の基盤となるゲノム・トランスクリプトームデータの整備に関しては、Kipferliaでのプロテオミクス再解析の結果から、既存のデータを精査する必要があると考えられたため、その作業を行うこととなった。Kipferlia, Dysnectes, Aduncisulcusについて、ゲノムデータだけではなくトランスクリプトームデータの情報も含め、マニュアルでのデータチェックも一部導入して、全ORFデータを精査しアノテーション作業を行った。これらのデータを公的データベースに登録し、公表するべく準備を進めており、Aduncisulcusについては最近登録を終え論文を投稿中である。以上のことから、基盤データ整備に関しても順調に進んでいる。一方、Roger研からはCarpediemonasの非常に完成度の高いゲノムデータとその解析に関する論文が公表され、そのデータが公開されている。 分子系統解析に関しては、ミトコンドリア・MRO関連タンパク質のうち、嫌気的ATP合成、NADH再酸化、鉄・硫黄クラスター合成、水素生成、抗酸化に関与するタンパク質の解析がほぼ完了した。しかしながら、原核生物からのタクソンサンプリングが不十分あるいは不適切である場合が散見されるため、データセットの再作成と再解析を繰り返していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度に引き続き、フォルニカータ生物6種を対象に、MROの機能の進化を推測するための基盤データの取得に関する実験研究とそれによるオリジナルデータを含めたデータ解析研究を進める。 とくにR4年度の実験研究においては、R2~3年度にKipferliaを対象に確立することができたMROの精製とプロテオミクス解析に関する方法論を、他のフォルニカータ生物にも適用して、他生物のMROプロテオームのデータを得る。橋本研・千葉研において、Dysnectes, Aduncisulcusに関し同様の方法論を用いて解析を進める。Roger研ではCarpediemonas、Chilomastixに関する高品質なゲノム・トランスクリプトームデータを取得することができているため、これらのMROのプロテオミクス解析に挑戦する。さらに、KipferliaおよびR4年度内にMROのプロテオームのデータを得る予定であるDysnectes, Aduncisulcusについて、MROタンパク質を3個程度選びそれらに対する抗体を作製し、間接蛍光抗体法によりそれらのタンパク質が確かにMROタンパク質であることを証明する。 一方、随時データの収集に努め、本課題におけるオリジナルデータと併せて分子進化学的解析が行える体制を維持していく。このようにして、今後、実験・データ解析の両面からミトコンドリア/MROの進化過程の全体像を明らかにし、嫌気環境適応によるミトコンドリア機能の縮退進化やMRO機能の進化にどのような多様性・普遍性があるかを探っていく。
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Causes of Carryover |
高価で長期保存不可能な薬品を使用する実験を次年度に行う計画となったため、その費用を使用せずに次年度に繰り越す必要があった。
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