2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19KK0187
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
石川 麻乃 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 助教 (20722101)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北野 潤 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 教授 (80346105)
山崎 曜 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 博士研究員 (40816021)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2022-03-31
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Keywords | 緯度適応 / 日長応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
緯度勾配への適応は地球上の生物に見られる普遍的な現象である。特に繁殖期の長さや時期は緯度勾配によって大きく異なる。しかしどのような遺伝的変異がこの緯度勾配による繁殖期の適応進化を実現してきたのかはほとんど分かっていない。そこで、本課題では、広域な緯度勾配に生息するヨーロッパのイトヨを材料に、動物において初めて緯度勾配における繁殖期の多様性を生む遺伝的変異を同定する。 本年度は、イトヨのヨーロッパ分布域のほぼ最南端であるスペインのガリシア地方(ビーゴ近郊)のイトヨについて、繁殖地で冬(2月)に採集を行い、繁殖形質の定量データを得た。また、同時に、ガリシア地方に複数存在する海型と淡水型10集団について、共同研究者から得られたサンプルからゲノム抽出を行い、ddRADシークエンス解析を行っている。さらに、研究室では、ノルウェー北極圏(トロムソ近郊)と、ガリシア地方の淡水型の純系を飼育し、北米と日本の淡水型で季節性繁殖のマスター制御因子として同定した甲状腺刺激ホルモンTSHb2の発現動体を解析した。これにより、北米や日本とは全く異なる遺伝的基盤によって、ガリシア地方の淡水型で繁殖期の長期化が進化したことが示唆された。さらに、ノルウェーとスペインの淡水型同士で違いのある繁殖形質、代謝、体サイズ、繁殖行動、ホルモン動態とTSHb2の日長反応性のQTL解析を行うために、これらの集団のF1個体同士を掛け合わせ、F2個体を200匹以上作出した。現在これらの個体は短日条件で飼育中であり、来年度には解析を行うことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画通り、ガリシア地方のイトヨの冬の野外条件での繁殖形質の定量データを得ることができ、また、来年度の初夏に採集と野外の繁殖形質の定量データを得る予定の、海型の生息地についても確認を行った。更に、ガリシア地方の淡水型の純系について行ったTSHb2の発現解析では、ガリシア地方の淡水型は短日条件で繁殖形質を発達させるにも関わらず、季節性マスター制御因子であるTSHb2の日長応答性は維持していることが分かった。これは、北米や日本とは全く異なる遺伝的基盤によって、繁殖期の長期化が進化したことを示唆している。また、この未知の遺伝基盤を探るためQTL解析を行う予定のノルウェー淡水型とガリシア淡水型のF2個体も順調に育っており、来年度にはこの解析に取りかかることができる。さらに、研究室での純系の人工繁殖系の確立に苦慮していたノルウェー淡水型についても、現在、安定的な繁殖が進められるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、初夏にガリシア地方とノルウェーで海型を採集し、繁殖期で繁殖形質の定量データと、純系や交雑個体の作成のための個体を得る予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、渡航は見合わせざるを得ない。そこで、現在研究室で純系や交雑個体の確立に成功している、ガリシア地方とノルウェーの淡水型の繁殖形質の違いの遺伝基盤の解析と、現在得られているガリシア地方の海型・淡水型のゲノム解析に集中的に取り組む。来年度得られる予定のF2個体と、ガリシア淡水型、ノルウェー淡水型の純系について、研究室内で日長条件に応じた繁殖形質、代謝、繁殖行動、ホルモン動態、トランスクリプトーム動態の解析を行う。また、状況が許せば、高緯度や中緯度に当たる集団について、共同研究者からDNAサンプルを得る。
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Causes of Carryover |
当初計画していた野外でのノルウェー北極圏とスペインのガリシア地方の淡水型の野外環境でのホルモン動態、トランスクリプトーム動態の解析は、次年度に計画している研究室内で行う各日長条件下でのホルモン動態、トランスクリプトーム動態の解析と同時に行う方がより効率的だと判断したため、このためホルモン計測キットとRNAシークエンス解析のキットの購入を次年度に行う。
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Research Products
(4 results)