2020 Fiscal Year Research-status Report
Transdisciplinary studies on the neural basis of cognitive development of imprinting
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19KK0211
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松島 俊也 北海道大学, 理学研究院, 教授 (40190459)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 俊之 帝京大学, 薬学部, 助教 (40718095)
本間 光一 帝京大学, 薬学部, 教授 (90251438)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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Keywords | 認知発達 / 自閉症 / バルプロ酸 / 刷り込み / 神経回路 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の課題】「出生前後の様々な経験は脳のどこに、どのような刻印を不可逆的に(あるいは可逆的に)加えることで、生後の社会と物理的世界に関わる認知の安定的な発達を可能にするのか」、これを核心をなす問いとして研究を進める。具体的な方策として孵化直後のニワトリ雛が示す刷り込み(インプリンティング)に焦点を当てた。インプリンティングの分子・認知・生理機構について集学的研究を国際的に展開することによって、動物が生得的に備えている「核となる知識 CORE KNOWLEDGE」を理解し、それを基盤とする認知発達過程を理解する。その為に以下の課題を設定した。(1)生物的運動(ヨハンソンの光点動画)・自発的運動(自律的な速度変化)・顔ゲシュタルトに対する選好性はどのように獲得されるかを行動学的に解析する。(2)選好性の発達を担う責任脳部位を同定し、発達のカギとなる分子カスケードを特定する。(3)物理的世界に関する認知発達(数の理解と算術演算、空間の理解と特徴的不変量を抽出する機構)が、1に挙げた社会的認知の発達とメカニズムを共有するか、を検討する。 【2020年度の進捗状況】2019年10月の交付内定以後、次の研究を進めた。 (1)刷り込みの行動研究を自動化する装置を設計製作し、2020年3月に短期間、研究代表者がトレント大に赴いて装置と実験手順を共有した。 (2)孵化前1週間(孵卵開始14日)の胚にバルプロ酸ナトリウムを投与すると、生得的な社会的選好性(ニワトリの原種である赤色野鶏のはく製を用いた実験による)への選好性が選択的に失われるというトレント側の最近の研究結果をもとに、ヨハンソンの生物的運動への選好性の発達に対する影響を調べた。コロナ禍のため交流を伴う実験が不可能だったが、バルプロ酸だけではなく、一連の神経伝達阻害剤の投与によっても生物的運動選好性の発達が阻害されることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【進展が見られた点】 行動研究は手順の些細な違いによって再現性がとれず複数の研究室の間で結果が矛盾する危険性がある。国際共同研究の実施に当たって、実験装置と手順を共有する必要があり、直接の交流を通して実現した。 さらに、生物的運動(BM)への選好性発達に関して、以下の知見を得た。(1)バルプロ酸の投与は人工物(回転するレゴブロック)への刷り込み(学習による選好性の形成)を阻害するが、BM選好性を有意には阻害しない。他方、(2)同様に抗てんかん作用を持つケタミンの投与はBM選好性発達を著しく阻害した。(3)しかしNMDA型受容体の選択的阻害剤であるMK801は刷り込み・BM選好性のいずれにも阻害効果を示さず、(4)ツボクラリンによる末梢性の(神経筋シナプスを介した)運動の抑制は、BM選好性を選択的に抑制した。これらの知見は、孵化前の胚の自発的運動による卵殻のわずかな振動を、アナログレコードのカートリッジをセンサーとして検出することによって得られたものである。 バルプロ酸には急性的な抗てんかん作用に加えて、核のヒストン蛋白の脱アセチル化酵素に対する阻害作用が知られている。妊娠中のバルプロ酸の処置が禁忌とされるのは、バルプロ酸による遺伝子発現の非特異的促進により、胎児の発達が障害されるためであると理解されている。そこで、胚の脳から得た一次培養細胞を対象としてヒストンのアセチル化をウェスタンブロッティング法によって定量化し、バルプロ酸とケタミンの効果を比べた。その結果、バルプロ酸処理は脱アセチル化レベルの明瞭な亢進が引き起こしたが、ケタミンは効果が確認されなかった。以上の結果から、発達過程の遺伝子発現に対する介入、また脳の自発活動に基づく運動に対する介入、この両者が共にBM選好性の発達を損なうことが示唆された。 【遅滞している点】コロナ禍のため十分な交流を行うことができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
【日本側での研究連携の強化】帝京大学と北大の間の研究連携を強化するために、学位を持つ若手研究員を昨年度に続いて臨時雇用することとした。昨年度帝京大で雇用した森千尋氏は帝京大にて助教として採用されたため、今年度は引き続き三浦桃子氏を北大にて雇用し、主に行動実験研究の補助に当たる。 【北大における研究展開:バルプロ酸によるニューロンとグリア細胞の成熟に対する阻害効果の検討】我々は孵卵開始14日(孵化前およそ7日)にて、自発活動が急速に活発化することを見出している。この時期の胚は既に大脳におけるニューロンの最終分裂を終え、解剖学的にも外套(皮質)・基底核の細胞構築がほぼ完成している。しかし予備実験の結果、我々はバルプロ酸処理を施した胚の孵化後の脳において、ニューロン・グリア比(大脳のすべての細胞を対象としてisotropic fractionation法を用いて計測した値)が対照群より有意に低下していることを見出した。既にニューロンの最終分裂は終わっていることから、最終分裂後のニューロンの成熟(NeuN免疫陽性性の細胞の割合)が、バルプロ酸によって抑制されていることを示す。これに対し、ケタミン処理胚から孵化した雛では、ニューロン・グリア比の低下は認められない。孵化後の行動に対するこれら二つの薬剤の作用が微妙に(かつ有意に)異なることから、刷り込みに先行して進む神経発達には、直接に、遺伝子発現を介したニューロン成熟のプロセスと、間接に、神経活動(特に末梢の運動)を介した神経回路の機能分化のプロセスと、二つが存在することが示唆される。 【イタリア側との連携研究の再開】コロナ禍が治まり、安全な国際交流が可能になる事、トレント大学での実験研究が再開することを前提として、研究代表者が日本側の若手研究者(人選未定)を帯同してイタリアで実験を行い、手順と成果のすり合わせを行う。
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Causes of Carryover |
【理由】コロナ禍のため、当初予定していたイタリア側の共同研究機関への訪問と滞在が一切不可能となり、招へいと訪問のために予定していた海外旅費及び滞在費等は支出しなかった。他方、日本側(北大および帝京大)で実施する研究を維持するために、研究員の臨時雇用を増やしたが、旅費等の減額に見合うものとはならなかった。2021年度、コロナ禍が収束していない現状では、2020年度に引き続いて日本側で研究員を臨時雇用して研究を進めざるを得ない。次年度使用額はこの人件費に充てる。なお、イタリア側とは密に連絡を取り合っており、結果の共有とディスカッションを続けている。
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Research Products
(11 results)