2021 Fiscal Year Research-status Report
Social optimal design on the subsidy scheme utilizing advanced IoT technology to protect the elderly from an influenza pandemic
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19KK0262
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
谷本 潤 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (60227238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一ノ瀬 元喜 静岡大学, 工学部, 准教授 (70550276)
伊東 啓 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (80780692)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2023-03-31
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Keywords | 感染症 / 数理疫学 / ゲーム理論 / vaccination game / 複雑ネットワーク科学 / 進化ゲーム |
Outline of Annual Research Achievements |
COVID-19は未だ終息への道筋が見えない.オミクロン株は弱毒化して定在型のインフルエンザ同様季節性感染症となる可能性が高い.その場合,ワクチン接種は現在の全額国費負担ではなく,一部に自己負担が伴いことになる.予防接種法によれば,高齢者には自治体が定める一定の補助がなされるが自己負担も伴う.予防接種を受ける/受けないは,個人レベルで意志決定される経済性とリスクの評価に委ねられるため,社会全体としてみたとき結果的に接種率が上がらない事態が起き得る.これは,個々人にとってみると,他者が予防接種をすることでいわゆる集団免疫が達成されるのなら,自らは接種せずとも罹患しない可能性が高くなるため,公共財としての集団免疫にfree-rideするインセンティブが潜在するからである(ワクチン接種ジレンマ).社会的弱者である高齢者をインフルエンザ,新型コロナウィルスなどの新興感染症の罹患リスクから守る先制的予防接種(ワクチン接種)の公的補助スキームにフォーカスし,最新の情報通信技術を導入することで,疾病コスト,ワクチン接種,さらに公的補助を担保する追加税負担を含めた社会総コストをトータルに最小化する社会情報システムの基本デザインを提示する.ドイツ・Max-Plank研究所/進化生物学研究所との連携の元,数理疫学と進化ゲーム理論とをマージさせたVaccination Gameの理論的枠組みを構築する.感染ダイナミクス,社会ジレンマを巡るエージェントの意志決定機構を人工社会システム上にMulti Agent Simulation(MAS)として理論構成,IoTにサポートされた社会情報システムが具備すべき要件を明らかにする.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の基盤となるのは,感染症が複雑ネットワーク上を伝搬するダイナミクスとワクチン接種,隔離,ロックダウン,マスク装着など多段化に行われる感染抑制介入方策へ個々人がコミットする/しないの意思決定ダイナミクスとを統合したIntervention Gameの構築である.研究代表者の谷本は,これまで,研究分担者の一ノ瀬(静岡大学),伊東(長崎大学),研究協力者のTraulsen教授(ドイツ・Max-Planck研究所)との連携によりVaccination Gameの理論構成に成功している.本研究では,これをベースにワクチン接種以外の介入方策のモデル化,ODEモデルとしてのプロトタイプを粒子数100万オーダーの人工社会システム上のMulti Agent Simulation(MAS)としてスーパーコンピュータ上に実装することを基本構想とし,各分担者,協力者との遠隔システムを通じた緊密な連携のもとに推進してきた.しかし,コロナ禍の影響で,日独双方の研究者が交通することで実質的な共同研究の実を上げる点でかなりの困難があった.実際,上記のMASモデルの枠組みのなかで,基盤フレームを展開させたる上で以下の点が積み残しとなった:すなわち計算機上に強化学習やニューラルネットワーク等を実装した知的エージェントを多数生成.進化ゲーム理論に基づく意志決定を時々刻々行う知的エージェントはメディアを通じてもたらされる感染情報とSNS等エージェント個人が有するサイバーネットワークを通じてもたらされるローカル情報とを入力に例えばワクチン接種する/しないの意志決定を下すとのエピソードを模擬する社会情報システムを人工社会に構成する点が残された.この点を,研究期間を1年間延長することで十全なものとすることが要請される.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では以下の積み残し課題に取り組む. 人工社会システムを適用した系統的数値実験による社会総コストミニマム実現シナリオ;人工社会システム上の大規模な系統的数値実験により,IoT情報技術を通じた制御介入による社会総コストの圧縮効果を詳細に検討する.例えば,制御介入の対象とする高齢者エージェントの全人口や高齢者総数に対する比,全額補助か割引補助かの差違,流行シーズン中の制御介入タイミングなど様々なコントロール因子に着目することで,高齢者福祉政策,保健医療,公衆衛生さらには社会科学上有意な知見を得る. 感染拡大を未然に防ぐ動的制御介入のための社会情報システムのデザインプロトコル提示;情報科学者の一ノ瀬と谷本が主導して,所謂,逆問題の解析手法を援用することで,社会総コストを圧縮し,かつ高齢者のインフルエンザ罹患リスクを軽減させる社会システムを実現するために実装しなければならない情報のマイニング・供給のデザイン(IoTに裏付けられたローカル情報やレコメンデーションを発給するためのプロトコル,中央サーバーが果たすべき予測機能)を構成論的に明らかにする.可能であれば,情報通信コンサルタント企業((株)構造計画研究所)との産学連携により,提案する社会情報システムを社会実装するための実効性ある基本プロトコルを提示ところまでの展開と目標とする.
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Causes of Carryover |
当初の研究計画はおおむね順調に達成してきていたところであるが、新型コロナウィルス感染の世界的拡大が,研究開始期から未だ就職しない状況にある.これに伴い,谷本,一ノ瀬,伊東がArine Traulsen教授の元に滞在して遂行する研究の大部を遠隔システムを利用して行わざるを得ない状況が強いられてきた.その為,現地滞在により実効を上げた研究協力体制に比して,若干の遅れが生じているため,今次,1年間の研究期間延長をして,当初の計画を完全に遂行することとした.具体的には,既往研究で構築してきた,数理疫学と進化ゲームをマージさせたVaccination Gameの理論構成を精緻化展開したRevised Vaccination Gameの枠組みを,ワクチン接種だけに限定せず,自主隔離(self-quarantine),マスク装着,social-distancingなど様々な非医療的(non-pharmaceutical)介入方策に拡大したIntervention Gameへと統合する.これは主として,Trauslsen教授と谷本との連携のもとに行われ,これをMASに実装した現実世界のシミュレーションに関しては,一ノ瀬,伊東の協力のもとに谷本が推進することを計画している.
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