2020 Fiscal Year Research-status Report
生態学と疫学の統合による節足動物媒介感染症制御に向けた警戒システムの共創
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19KK0274
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三條場 千寿 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70549667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 大介 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 研究員 (40829850)
宮下 直 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50182019)
糸川 健太郎 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (70769992)
筒井 優 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (70850098)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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Keywords | 節足動物媒介性感染症 / トルコ / リーシュマニア症 / ウエストナイル熱 / サシチョウバエ / 蚊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、サシチョウバエが媒介するリーシュマニア症と蚊が媒介するウエストナイル熱をモデル感染症とし、これら感染症対策を課題とするトルコにおいて、気候・生態系変動の予測・影響評価をもとにした感染症流行の早期警戒システムの構築を目的としている。 サシチョウバエ類全般に、汎用的に一塩基多型(SNP)の遺伝子型解析を行うために、種間で保存性の高い塩基配列を標的としたビオチン化オリゴDNAをデザインした。昨年度に合成したプローブセットによる実験結果を精査した結果、安定的なハイブリダイゼーションキャプチャーには少なくとも90%以上の塩基相同性が必要であることが分かった。そこで、3種のサシチョウバエのゲノムアセンブリから種間で92%以上の相同性が見られる領域をバイオインフォマティクス解析により抽出し、約330箇所のキャプチャープローブをデザインし合成することが出来た。 また、液体窒素やドライアイスの入手困難な国外で採集した蚊の保有するウイルスゲノムRNAを常温で安定的に保存する手法につき、ヒトスジシマカの実験室系統の個体に100%の割合で感染しているラブドウイルスを対象とし検証した。その結果、70%エタノール、プロピレングリコール、核酸保存試薬DNA/RNA shieldへの浸漬により、8週目までウイルスゲノムRNAが安定的に保存されることが明らかとなった。 さらに、トルコ国内、皮膚型リーシュマニア症の流行地であるMersin provinceにおいて、Phlebotomus sergenti が優占種(30.1%)であることが明らかとなった。サシチョウバエ雌中腸からの原虫分離には至らなかったが、ITS1を標的としたreal-time PCRによりLeishmania tropicaのDNAが検出されたことから、本地域においてP. sergentiが媒介種である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス拡大防止対策による渡航制限の影響をうけ、日本人研究者によるトルコ国内フィールド調査の実施、また、トルコの海外研究協力者に、日本人研究者により確立されたゲノムワイド変異解析および保有ウイルスの網羅的解析法のための技術共有が出来ず、日本側、トルコ側と完全な分担研究となったことから、当初の計画より遅れている。 しかしながら、日本人研究者の渡航が厳しくなった場合に備え行った本年度までの実績により、微小昆虫であるがゆえに難しいとされていた野外採集サシチョウバエのゲノムDNAが安定的かつ高い収量で抽出することが可能となり、サシチョウバエおよび蚊が保有するウイルスゲノムRNAの安定的な保存方法が確立されたことにより、今後はサンプルの輸送等により挽回できるものと考える。さらに微小昆虫一個体から得られるゲノムDNAの一部(~10 ng)でゲノムワイドな解析が可能となり、効率的な網羅解析法も確立され、即解析に持ち込める準備は整っている。サシチョウバエおよび蚊の生息モデルを作成するために必要な基盤情報を収集し、社会要因としては、トルコ統計研究所(TURKSTAT)のデータベースから、1㎞メッシュでの人口や、困者データを取得でき、有効集団サイズや空間遺伝構造を明らかにするための各種ソフトウェアの準備も完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、研究代表者および日本人研究者、海外研究協力者によるトルコ国内調査を実施し、以下の研究推進方策を遂行する。 土地利用の異なる場所からサシチョウバエ・蚊の採集を行い、形態学的分類解析を行い、種ごとの地理的分布を明らかにする。種の分布パターンと環境要因(説明変数:気候、降水量、マクロな土地利用)の関係を統計モデルにより解析することで、媒介種にとって重要な環境を定性的に評価し、種ごとの生息適地モデルの作成を行う。さらに、本年度に作製したプローブセットを用いて疫学的に重要性の高いサシチョウバエのサンプルについて集団遺伝学解析を試みる。 病原体感染率調査を、リーシュマニア症ではサシチョウバエとイヌを対象に、ウエストナイル熱では蚊、鳥、馬を対象に行い、感染リスクがあるエリアを特定する。蚊が保有するウイルスの網羅的解析を行う。さらに、核遺伝子の多型をもとに、各集団での有効集団サイズを推定する。 新型コロナウイルス拡大防止対策のため、トルコへの渡航が引き続き難しい場合は、海外共同研究者による現地調査を引き続き行い密に情報共有し、サンプルは採集後に日本に輸送することにより、研究を遂行していく。研究代表者については、日本およびトルコ政府の方針に従いつつ、トルコ国内調査を実施する。トルコ側海外研究協力者はコロナウイルスに対するワクチンを接種済みであることから、海外研究代表者を招聘し、技術共有を行う。
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Causes of Carryover |
本年度に計画していたトルコにおけるフィールド調査が、渡航制限の影響をうけ実施できなかったため、計上していた旅費および調査に伴う人件費・謝金の支出がなかった。次年度は、渡航制限の解除後、直ちに現地調査を行う予定であり、旅費および調査に伴う人件費等としての使用を計画している。
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