2022 Fiscal Year Research-status Report
生態学と疫学の統合による節足動物媒介感染症制御に向けた警戒システムの共創
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19KK0274
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三條場 千寿 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70549667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 大介 国立感染症研究所, 安全実験管理部, 主任研究官 (40829850)
宮下 直 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50182019)
糸川 健太郎 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (70769992)
筒井 優 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (70850098) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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Keywords | 節足動物媒介性感染症 / トルコ / リーシュマニア症 / サシチョウバエ / 蚊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、サシチョウバエが媒介するリーシュマニア症と蚊が媒介するウエストナイル熱をモデル感染症とし、これら感染症対策を課題とするトルコにおいて、気候・生態系変動の予測・影響評価をもとにした感染症流行の早期警戒システムの構築を目的としている。 トルコに生息するサシチョウバエについて、これまで得られたデータを集積、また既報論文を網羅的に収集し31種につき生息地点地図を作成した。皮膚型/内蔵型リーシュマニア症のベクター種とされているPhlebotomus sergenti、P. papatasi、P. major、P. neglectus/syracus、P. tobbiについては、生息範囲を決定する因子として、気候(年間平均/最低/最高気温、年間平均降水量)、土地利用・植生(正規化差植生指数)、周辺環境、地形(傾斜、方角、高度)、生物環境(犬や家畜などの存在)を仮説とし、Worldclim、CORINE、SRTMからデータを取得し、地理情報解析ソフトを利用して解像度10 square kilometersで点またはグリッドを作成、値を抽出することにより第一段階の生息範囲地図を作成した。 トルコに生息する蚊については、東部より採集したCulex pipiensを用い、フラビウイルスに対する感受性を頭部・翅・脚へのウイルス感染7日目、14日目における移行率により算出した。蚊媒介ウイルスの殆どはRNAウイルスであり、虫体からウイルス遺伝子の検出等の解析を行うためには、採集後の低温保持が必要となる。ドライアイス等の入手困難な調査地や長時間の輸送を行う際、採集した蚊の保有するウイルスRNAを安定的に保存する手法を確立した。Aedes albopictusの実験室系統を用い検証を行い、8週目まで常温下においてもウイルスRNA量の有意な減少はみられず、コールドチェーンにとらわれない疫学調査への実装が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初より新型コロナウイルス拡大防止対策による渡航制限の影響をうけ、日本人研究者によるトルコ国内フィールド調査の実施、技術移転が出来ず、計画より遅れていたが、サシチョウバエおよび蚊が保有するウイルスゲノムRNAの安定的な保存方法が確立されたこと、また最終年度に予定していた媒介昆虫の広域分布予測と感染の分布予測図のための解析に着手したことにより、遅れを取り戻している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者および日本人研究者、海外研究協力者によるトルコ国内調査を実施し、サシチョウバエ・蚊における病原体感染率調査を加速させる。リーシュマニア症ではサシチョウバエとイヌを対象に、ウエストナイル熱では主に蚊を対象に行い、感染リスクがある主たるエリアを特定する。蚊が保有するウイルスの網羅的解析は、昨年度に引き続き対象昆虫を培地中で破砕し、ろ過滅菌、各種ヌクレアーゼによる昆虫由来核酸の除去後、RNA抽出を行う。抽出したRNAを鋳型としてcDNAの合成を行い、NGS用のライブラリーを作製する。ライブラリーの増幅、NGSによるシークエンス解析を行い、de novoアセンブリを行うことにより、コンティグ配列を作成しウイルス様配列の検索を行う。さらに、リーシュマニア症については、皮膚型/内蔵型患者およびイヌリーシュマニア症の最新の分布を明らかにし、トルコにおける特にリーシュマニア症ベクター種サシチョウバエの生息範囲予測地図を完成させ、宿主-媒介種-病原体の関連など考察を深める。Culex pipiensおよびAedes albopictusについても生息範囲予測地図を完成させる。そのために、調査努力量の偏りなどのバイアス除去、具体的な偽不在データの設置方法、種による移動分散能力の検討、および環境データの解像度等の課題を解決する。
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Causes of Carryover |
本年度に計画していたトルコにおけるフィールド調査が、渡航制限の影響をうけ限られた回数しか実施できなかったため、計上していた旅費および調査に伴う人件費・謝金の支出がなかった。次年度は現地調査を活発化する予定であり、旅費および調査に伴う人件費等としての使用を計画している。
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