2020 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Studies on Rhetoric Strategies in Democratic Athens
Project/Area Number |
19KK0296
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐藤 昇 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (50548667)
|
Project Period (FY) |
2020 – 2022
|
Keywords | 古代ギリシア / 民主政 / 修辞学 / レトリック / 法廷 / 民会 / 西洋古代史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「民主政アテナイの演説文化:法廷における実践的修辞戦略に関する総合的研究」を基課題として、その成果を海外の専門研究者とともに多角的に分析し、更なる発展を目指すものである。基課題を含めた研究全体の目的は、古典期アテナイの演説文化の歴史的特性を明らかにし、古典期アテナイの民主政像を新たに構築し直すことにある。基課題では、法廷での修辞技法に注目し、史学・法学・文学の知見を総合して如何なる技法が討議、説得に用いられていたのか、弁論ジャンルによる差異にも配慮しながら精緻に分析を加えることで、その歴史的特性を解明してきた。この基課題の研究については、研究代表者、分担者ともに各々の研究を進めて著書や学術論文を発表するとともに、2020年度末にはオンラインによる国際シンポジウムを開催し、海外の研究協力者とともに成果を発表し、意見交換を行なった。 本国際共同研究では、法廷における実践的修辞技法と、他の場で享受される弁論作品(民会演説、演示的演説など)に見られる修辞技法との比較研究を行う。他ジャンルの弁論との差異を確認することで、法廷弁論の実践的修辞技法の特性を明確化すること、そして類似性・影響関係を分析することで、民主政アテナイにおいて発展した演説文化全体の特性を明らかにすることを目的とする。2020年度は、民会演説における野次をめぐる言説、これと法廷との違いを明らかにし、その内容を英語論文にまとめており、近く論文集の一章として刊行される予定である。また弁論家デモステネスの民会演説における個人攻撃のレトリックの変化についても整理し、これも英語論文としてまとめている最中である。渡航は2022年に予定している。国際共同研究のための打ち合わせについては、コロナ禍で幾分かの遅延があるものの、メール及びオンラインでの討議を通じて着実に進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
自分自身の研究に関しては、これまでの蓄積を元にしながら、弁論家デモステネスの法廷弁論の訳註・解説を発表し、西洋古典学叢書の一部として出版した他、国際学会において、古典期アテナイの法廷弁論における場外観衆への言及について口頭発表を行い、また、アテナイの民会における野次の効能、抑止に関わる論文を完成させ(近刊予定)、さらに弁論家デモステネスの民会演説における個人攻撃のレトリックの変化について整理し、英語論文としてまとめているところである。従って、総じて研究は順調に進展していると言える。 その一方で、国際共同研究の準備に関しては、メール及びオンライン会議によって着実に進行させてはいるが、コロナ禍により予定していたイギリス渡航、研究者招聘ができなかったため、研究上の打ち合わせ、意見交換に不十分な点が残ると言わざるを得ない。また受け入れ機関(ロンドン大学ロイヤルホロウェイ)もロックダウンのために閉鎖状態にあったため、受け入れ予定の研究者以外との議論や打ち合わせといった交流ができておらず、この点に関してはやや遅れていると言わざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、まず引き続き自分自身の研究を進展させる。弁論家デモステネスの民会演説における個人攻撃のレトリックの変化に関しては、現在執筆中の論文を夏季休暇中に完成させる。また国際学会で発表した、法廷演説における場外観衆への言及に関する研究も、推敲し、学術論文としてまとめる予定である。さらに新たに、民会・法廷における野次の利用・抑制について、これまでとは異なる視点から分析を進める。すなわち、これまでの研究では、野次を予期して抑制する、あるいは野次を誘引しようとするレトリックに注目してきたが、過去に生じた野次に対してどのように評価・言及しているのかを分析することで、民主政下のアテナイにおいて観衆の野次が持つ政治的意義を再検討する。 海外の研究者との共同研究計画については、当面はメール及びオンライン会議で打ち合わせを行い、コロナ禍が一定の収束を見ていれば、冬季に一度イギリスに渡航するとともに、年明けに海外からの研究者を2名ほど招聘し、研究会を開催する予定である。その後、2022年3月末に受け入れ機関であるロンドン大学ロイヤルホロウェイに拠点を移し、研究者との打ち合わせを進めて、多様なジャンルにわたる演説・修辞文化の多面性、相互関連性を検討していく予定である。
|
Research Products
(6 results)