2021 Fiscal Year Research-status Report
A historical study of cultural exchanges in the context of the multi-layered and transnational experiences of Japanese-American immigrants
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19KK0297
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
廣岡 浄進 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 准教授 (30548350)
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Project Period (FY) |
2021 – 2023
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Keywords | 日系人強制収容 / 日本国憲法 / GHQ草案 / 部落差別 / レイシズム / 生政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究にかかわる成果として、朝治武、黒川みどり、内田龍史共編著『講座 近現代日本の部落問題』第1巻『近代の部落問題』に論文「越境する人の移動と被差別部落」を執筆した。これは、近代初頭からの部落からの移民送出やあるいは移民論を概観した上で、ハワイを含むアメリカ移民について新聞史料や第二次世界大戦下の日系人強制収容にかかわる調査記録等から日系移民における部落差別を明らかにし、さらにWRA(戦時転住局)の調査関係者が収容所や日系2世軍人の間での部落差別を記録し、それらに強い関心を示していたこと、これが戦後の日本国憲法制定にあたってのGHQ草案につながる可能性を論じたものであり、本研究課題の方向性を示したといえる。 さらに、渡航先の受入機関であるSan Francisco State University(カリフォルニア州立)のCollege of Ethnic Studiesの学科にあたるDepartment of Asian American Studies教員らで運営されているEdison Uno Instisute Uchinanchu & Nikkei Studiesが開催した日米の国際シンポジウムに、基課題の研究分担者でもある友常勉氏とともに、その企画立案の段階から参画し、合同セッション「Buraku Immigrants Studies」 (部落出身移民研究)を担当するとともに、2022年3月3日からの3日間にわたった企画の討論などに参加した。なお、このシンポジウムでは、廣岡が所属している大阪市立大学人権問題研究センター(College of Ethinic Studiesとは長年の交流協定を有し、これを基礎に当該年度から大学間協定が締結された)と友常の科研費研究とが共催に入り、経費の約半分を分担した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年10月から2022年9月までの1年弱の計画で渡航し、渡航先では、共同研究者の友常勉氏と合流し、期間の前半にあたる2022年3月までは合同調査にあたるとともに、前述の通り、San Francisco State Universityを会場にしたシンポジウム開催にあたって、その準備から携わった。これを通じて、本研究課題に関心を示す現地の日系研究者やアジア系アメリカ人研究者、および日系コミュニティ活動家らとの関係を築き、その問題意識に触れることによって、本研究課題に接近するにあたって重要な視点への気づきを得るとともに、関係文献や関連研究についての助言を受けることができた。 並行して、日系コミュニティを対象とするいくつかの対面やオンラインの集まりに参加し、これを端緒に研究者やコミュニティ関係者との交流を始めることもできた。 また、日系人強制収容所跡のうち、Manzanar強制収容所跡を訪問し、展示および再現建築を参観した。同史跡は先住民居留地内にあり、その保全およびアメリカの公共圏における記憶をめぐって先住民コミュニティの運動との葛藤とそれを乗りこえた共闘の経緯があり、折り重なるレイシズムの構造の中での記憶の表象と継承とをめぐる論点について考える契機となった。 日本国憲法制定過程におけるGHQ草案に部落出身のアメリカ移民の被差別という歴史経験が反映されているのではないかという本研究課題の視点は、その焦点が第二次世界大戦(アジア・太平洋戦争)下におけるアメリカ合衆国の日系人強制収容政策とその実態解明に絞られてきた。と同時に、本研究は、日系人強制収容政策それ自体が日本占領計画の立案と密接に関わっていたのではないかという関心を浮上させ、これが日系人強制収容をめぐる視点としては新たな問題提起たりうるようだという研究状況が見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
パンデミック情況が継続する中での渡航であったという事情もあり、2021年度中はサンフランシスコのベイエリア圏外への長距離移動をほとんど着手できず、文献調査については、既刊文献の把握を通じた研究蓄積の消化や、主にオンラインで公開されている史料の入手や回顧インタビューの検討などが中心となった。 のこる後半は、サンフランシスコ近郊ではStanford UniversityのHoover Institution、San Francisco National Archive、California State University, Sacramento所蔵日系アメリカ人関係アーカイブなどへの史料調査をすすめるとともに、ロサンゼルスのJapanese American National MuseumやUCLA、さらにはワシントンDCの米国国立公文書館(NARA)などへの調査をおこないたい。これらの目録はオンライン公開されているものも多いので、事前の準備が必要であり、これを急ぎたい。また、日系移民の指導者については開戦前から当局の監視がおこなわれていたことが強く推測されることから、軍関係史料の調査も課題としてあげられる。 なお、当初計画では聞きとり調査を構想していたが、目下のところ予備的な調査にとどまっている。関係者への接触や打診を進めていきたい。また、さらなる強制収容所跡への踏査も計画している。強制収容開始から80年という節目でもあり、関係者の協力も期待されるところである。 このほか、沖縄県人との比較や相互関係の検討も念頭に、ハワイ調査も課題としてあげていたが、パンデミック情況の動向を注視しながらの判断となるため、実地調査は別の機会にまわすことも検討している。
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Research Products
(3 results)