2023 Fiscal Year Annual Research Report
地中海世界の大転換期(前12世紀~前10世紀)と「フェニキア人」の出現
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19KK0305
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
小野塚 拓造 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 主任研究員 (90736167)
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Project Period (FY) |
2020 – 2023
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Keywords | 後期青銅器時代 / 鉄器時代 / レヴァント / フェニキア / カナン / 土器 / 交易 |
Outline of Annual Research Achievements |
エルサレムにあるオルブライト考古学研究所に2023年5月までアソシエイト・フェローとして滞在し、本事業の共同研究者であるシュミット所長と連携しながら、本研究課題を進めた。滞在中は、イスラエル国内に保管されているレヘシュ遺跡およびゼロール遺跡の出土資料の整理に集中的に取り組んだ。帰国後は関連遺跡の報告書を渉猟し、フェニキア地域で生産された彩文土器(とその模倣品)の分布パターン、その出現と流通の背景として重要であったと考えられる前13世紀~前10世紀にかけて展開した都市の変容、拠点都市の交替といった事例の把握、研究成果のとりまとめに努めた。 本研究では、繁栄を誇った青銅器時代の文明が瓦解し、その後、現在まで文化的影響を残すことになる諸集団が現われたとされる東地中海世界の初期鉄器時代の様相の一端、特に研究が遅れているフェニキアの人々による交易活動の活発化とその背景について、考古資料から検討した。フェニキアと呼ばれる地域の南端に位置し、前13世紀~前10世紀にかけての居住層が確認されているゼロール遺跡や、フェニキアの近隣地域の主要都市であったレヘシュ遺跡の発掘資料を整理・分析することで、1)前11世紀からフェニキアの交易活動とその影響を考古学的痕跡として確認できるようになるが、それが活発化するのは前10世紀以降であること、2)交易ネットワークは一様ではなく、同じ時期にレヴァント地域の各地で展開していた拠点都市の交替、青銅器時代以来の都市社会の変容といった変化と連動していた可能性を指摘することができた。また、期間中、ヨルダン渓谷(ヨルダン)やアムーク平原(トルコ)の諸遺跡を訪問し現地で調査に取り組む研究者と情報共有し、出土物を実見する機会を得たことから、本研究の成果をレヴァント全域および東地中海世界というより広い脈絡に位置づけていくための多くのヒントを得ることができた。
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