2021 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな作品市場の拡大と都市レベルの美術の制度変化に関する国際比較研究
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19KK0310
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
笹島 秀晃 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (30614656)
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Project Period (FY) |
2021 – 2023
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Keywords | 作品市場 / 美術制度 / オルタナティブ・スペース / ニューヨーク / 制度変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、絵画や彫刻といった美術領域において20世紀後半に進展した「グローバルな作品史上の拡大」にともなう、ニューヨーク・ロンドン・東京における都市レベルの美術の制度変化を明らかにすることである。グローバルな作品史上に組み込まれるなかで、都市における作品の生産・流通・受容のネットワーク、および作品評価や価値形成過程がどのように変化するのか。この問いを中心に研究を進めてきた 本年度はシカゴ大学に研究滞在し、おもにレーゲンスタイン図書館に所蔵されている文献や資料、また相互利用サービスを用いて、基本的な資料収集を多なった。とくに、ニューヨークにおける状況を集中的に調べ、オルタナティブ・スペース・ムーブメントと呼ばれる、グローバル化するニューヨークの美術業界に対して制度批判の活動をおこなったアーティストたちの活動を調査した。 具体的に収集した資料は、各運動団体や非営利組織の発行物展覧会カタログ、関連雑誌記事、アーティストのカタログや二次文献である。ニューヨークにおける美術市場の活性化は、経済の論理に対抗する運動を活性化させ、同時にアート作品の意義や価値に関して、より複雑な議論を生み出したことが知見として得られている。 こうした研究で得られた知見は、2022年8月にアテネで開催予定の国際社会学会RC21-Conferenceで報告予定である(アクセプト済み)。また、2022年度中に国内雑誌に論文を投稿することを計画している
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、シカゴ大学へのおよそ1年間の研究滞在を中心として計画を組み立てていた。しかし、コロナ禍のため渡米の計画が大幅に変更になり、当初の計画の4分の1程度である3ヶ月弱しか滞在することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の海外滞在の方針であるが、コロナ禍が収まりを見せない中で、当初予定した滞在期間を大幅に短くせざるを得ない可能性が非常に大きくなっている。したがって、長期間の滞在は困難であるが、1週間程度の滞在を複数回繰り返すことで、可能な限り海外での研究活動をすすめることを新たな滞在計画として検討中である。 その一方で、研究をすすめる中で社会ネットワーク分析の手法であらたに事例を分析する見通しを得た。この手法によると、適切な資料が得られたならば必ずしも多くの資料を得る必要はなく、本研究の主な目的である美術の制度変化を描くことができる。そのため、資料収集の方針も各都市の美術制度を描くための網羅的な資料を収集するという当初の計画を変更し、とくに美術館、画廊、大学関連施設といった主要展示施設における画家の作品取り扱い履歴に関するデータを可能な限り集め、作品流通の社会ネットワークを描くことを一つの代替策として考えた。ニューヨークの事例に関しては2022年にこの手法を用いた英語論文がアクセプト済みであるので、他の都市にもこの手法の応用を行うことを目指す。 また、作品史上のグローバル化に対して、アーティストによる抗議活動が増加し、当時の美術の作品価値をめぐる新たな議論が生じたことが初年度の研究を通して明らかになっている。今後はこうした諸都市の抗議活動にも光をあて、美術をめぐる制度変化にどのような影響を与えたのかを検討する予定である。
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