2020 Fiscal Year Research-status Report
中東諸国間のセキュリティ協力:イスラエルと湾岸産油国・トルコとの非公式関係の解明
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19KK0319
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池内 恵 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40390702)
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Project Period (FY) |
2020 – 2022
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Keywords | グローバルセキュリティ / 国際安全保障 / テロリズム / イスラエル / ジハード / アラブ首長国連邦 |
Outline of Annual Research Achievements |
今研究課題では、2001年以後現在まで続く米国が主導する「対テロ戦争」において、いずれも米の同盟国でありながら、2020年まで公式的な外交関係がないままであったイスラエルと湾岸産油国、あるいはイスラエルとの政治・外交関係が良好ではないトルコが、水面下で行ってきた治安・安全保障協力関係の最新の動向を、現地に拠点を築いて調査することにある。特に、中東の国際安全保障におけるイスラエルの重要性に着目し、研究対象としてだけでなく、研究協力の相手方としての有用性に着目し、従来の日本の大学・研究機関がこれと十分な関係構築をしてこなかった事情を踏まえ、イスラエルを拠点に湾岸産油国やトルコを含めた中東全体の国際安全保障の調査研究を進めることが本研究の趣旨である。 2020年度にオンラインで実施したテルアビブ大等のイスラエルの大学・研究機関、およびUAEのシンクタンクとのリモート会議を通じて、イスラエルと湾岸産油国の水面下での密接な関係構築の進展を逐次観察した結果、イスラエルと湾岸産油国は対イランおよび対トルコの脅威認識を共有し、安全保障に関わる情報の共有を図っており、脱炭素化の世界的趨勢の中で湾岸産油国はイスラエルの技術の導入を目指している点が確認された。またイスラエルと湾岸産油国が中国を中心とした東アジア経済への参入において協調の余地を見出している点も確認できた。 本課題の推進はイスラエルを拠点にトルコやUAE等を副次的拠点として中東の現地から国際秩序の変動を調査し発進することにあったが、これは2020年度を通じてコロナ禍により大幅に阻害された。しかし2020年9月のイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)およびバーレーンの国交正常化調印により、本研究課題が着目していたイスラエルと湾岸産油国の水面下の動きとして注目していた事象が公式化し、本研究課題の重要性や的確さが示された形である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により渡航を伴う研究活動が2020年を通じて困難になり、2021年を通しても渡航の再開が不透明・不確実であるため、国際共同研究の推進を主眼とする本研究課題に大きな支障をきたしているため、代替的手段による部分的な研究遂行を進めている。 2020年度の6月以降にテルアビブ大モシェダヤン中東アフリカ研究センターの客員教授として籍を置く辞令は交付されており、イスラエルとの研究協力をテルアビブおよびエルサレムを拠点に実施する事前準備は万全である。また、並行してトルコおよびアラブ首長国連邦(UAE)への渡航による研究協力活動を推進するために研究協力者・協力機関と緊密に協議を進めた。しかし、コロナ禍により2020年3月よりイスラエル・英国・トルコ等への渡航が著しく困難になっているため、渡航を伴う計画の実施を当面延期した状態である。 代替的な手段としてリモート会議による研究大会の開催を採用しており、これまで年1回の渡航によって開催していたテルアビブ大との研究大会は、リモートで2020年度に2回開催し、定例化・恒常化についての合意を得た。それ以外に、エルサレム・ヘブライ大学や、イスラエル首相府サイバーセキュリティ部門・厚生省ワクチン政策等の実務家を含めた協議のネットワークをリモート会議により形成した。 またアラブ首長国連邦のシンクタンクとは定例の研究会の枠組みを立ち上げ、4回のセミナー・シリーズを共同開催した。アラブ首長国連邦の有力メディアには中東のセキュリティに関わる定期寄稿を行なって情報発信を行うと共に、それらをトルコの出版社から書籍として刊行し、中東の専門家からのフィードバックを得ている。 これらのリモート会議によって培った人的交流ネットワーク形成により、渡航制限が緩和され次第、渡航による国際共同研究の推進を活発に行う準備を整えた。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍による渡航制限、検疫等の入国規制、PCR陰性証明書やワクチン接種証明書等の国際的な義務付けや国による基準の相違は、イスラエルや湾岸産油国やトルコや英国等に渡航し滞在して行うことが前提の本研究課題を著しく阻害している。 この困難な条件を部分的にも克服するための研究課題の推進方策としては、すでに着手しているリモート化をさらに大幅に推し進め、恒常的・定例的な会議の枠組みをイスラエルおよびアラブ首長国連邦等と構築し、共同研究大会の開催を恒常的・定例化し、より頻繁に開催することで、研究交流の密度を高めるのが今後の課題である。これに関して、研究代表者の所属機関と相手方諸国の研究機関との協定の締結も必要に応じて行い、共同研究を公式化し定常化していくことを進める。 また、アラブ首長国連邦等、中東の現地の報道機関やシンクタンク等のウェブサイトでの本研究プロジェクトに関係した情報発信をさらに強め、発信した情報に対するフィードバックをイスラエル・アラブ首長国連邦・トルコその他中東諸国からより頻繁に大量に受け取ることで、渡航制限下の国際研究協力の代替的な推進の手法を新たに開発したい。
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