2021 Fiscal Year Research-status Report
「遅れてきた国家」における立憲主義概念の受容と展開-日豪比較法研究
Project/Area Number |
19KK0324
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
江藤 祥平 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (90609124)
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Project Period (FY) |
2020 – 2022
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Keywords | 憲法 / 立憲主義 / オーストラリア / 比較憲法 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクトの2年目に当たる2021年度は、オーストラリア憲法と日本国憲法の共通点と相違点を、両国の歴史的な成り立ちから明確にすることに努めた。研究成果の公表は最終年度に予定しているため、以下では現時点における概略を示す。 まず共通点として目を引くのは、両国の憲法は他国の主権的枠組みの中で展開されたということである。すなわち、1901年施行のオーストラリア憲法はイギリス議会法の中で、1947年施行の日本国憲法は占領統治下で、それぞれ憲法の始まりを迎えた。これは市民革命(フランス革命がその典型)を立憲主義の始まりとみる伝統的な議論からすると確かに異例であった。 しかし、オーストラリアはその後、1931年ウェストミンスター法、1986年オーストラリア法の制定をもって、イギリスからの完全な独立を果たし、他方の日本もサンフランシスコ平和条約で主権回復(ただし沖縄を除く)を果たした後は、独自の憲法秩序を形成して立憲主義を形成していくことになった。 ところが、興味深いことに、日本の場合には立憲主義へのコミットメントが必ずしも強くないのに対して、オーストラリアの場合には強固なコミットメントが認められる(ただし、それは憲法典に対するコミットメントではなく、民主的な政治道徳へのコミットメントである)。この違いは日本の憲法制定が敗戦をきっかけとしているという事情で一応の説明はつくが、オーストラリアの場合も植民地主義を出発点に抱えており、その出発に困難を抱えていた点では共通している。 この点で本研究が着目しているのが、オーストラリアにおける連邦制の展開である。オーストラリア憲法は連邦国家の形成を主眼としているため、憲法問題は必然的に連邦政府の権限をめぐる闘争となって表れる。政府の権限を所与としないこの考え方が、国民の議会政治へのコミットメントの調達を実効的なものにしたと本研究は見ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究はパンデミックの開始時期とちょうど重なるという不運から、2020年度は予定していた研究計画を大幅に変更せざるを得なくなった。また2021年度に実施予定であった在外研究も見送らざるを得ず、2021年度の研究計画にも大きな支障が生じた。もっとも、シドニー大学での客員研究員の受け入れが2022年度から始まり、当初の予定から1年半遅れることにはなるが、2022年度9月より渡航できる見込みが立ってきた。それに伴い、共同研究者と現地において行うべき具体的な研究内容を詰める段階に至っており、今後の研究成果の発表に向けて着実に計画を前に進めることができると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初2021年度に予定していたシドニー大学においての共同研究であるが、パンデミックの影響でオーストラリアの国境が閉鎖されていたことから、本年度の実施は叶わなかった。もっとも、2022年度に入ってオーストラリアの国境が段階的に開放に向かっており、予定では2022年9月より1年の予定で渡航し、現地での研究を進める予定である。2022年度は当初の予定では研究最終年度に当たるが、1年の延長を申し出て、研究成果を公表する時間を確保する予定でいる。
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