Research Abstract |
エームス試験などの微生物の試験では突然変異を誘発しないが, マウスでがんを誘発する化学物質(非変異発がん物質)が知られている。これらの物質のなかで, phenyl hydroquinone(PHQ)を代表として, 出芽酵母を用いて作用機構を調べた。その結果, Hog1タンパク質をリン酸化し活性化すること(MAPK経路の活性化), 細胞周期をG2/M境界で停止すること, G2/M境界停止に特徴的なelongated budを形成し, その形成はSwel(ヒトWeelのhomolog)タンパク質の安定化に依存することがわかった。Swelの安定化はG2/M停止を導く。従って, PHQはMAPKを活性化して, G2/M停止を導き, その結果異数性を誘発することがわかった。次に, 酵母の結果がヒト細胞でも当てはまるかどうかを検証した。HCT116細胞に対して, PHQは異数性を誘発した。PHQはまたmitotic indexをほんの少し(10%程度)高め, アポトーシスも誘発し, 中心体の増幅も誘導した。一方, PHQはG2/M期での細胞周期の進行を遅らせることも明らかとなった。PHQはまたp53をリン酸化して安定化する。そこで, p53の役割について調べたところ, p53欠損株では, 細胞周期の遅延が解消し, 中心体増幅も観察されなくなり, 異数性も観察されなくなった。P53正常株で, G2/M境界の移行を調節するWeelをノックダウンしたところ, PHQによる中心体増幅も, 異数性も観察されなかった。PHQはp53を活性化するが, DNA損傷に反応するATMIATRの活性化は見られない。以上より, PHQはヒト細胞ではDNA損傷を経ないで, p53を活性化し, その結果G2/M境界で細胞周期を停止(遅延)させることで, 中心体の増幅を起こし, その結果異数性となる。異数性と発がんの関係について, 今後調べてゆきたい。
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