Research Abstract |
私たちが発見したRafファミリーの新規のメンバーDX-Raf蛋白質群(DA-Raf, DB-Raf, DC-Raf)はいずれもキナーゼドメインを欠損し,Ras-ERKカスケードに拮抗作用を示すと考えられる.これらのメンバーについて,次のことがらを明らかにした. ヒトA-Raf/DA-RafのRas結合ドメインに,1塩基挿入とアミノ酸置換を引き起こすSNPsが存在していた.前者のSNPでは,DA-Raf蛋白質は発現しなかった.また後者のSNPによって生じたDA-Rafは,活性化Rasに結合せず,ERKカスケードを抑制しなかった.さらに,Rasの活性型突然変異がみられるヒトがん細胞株において,DA-Raf蛋白質の発現がみられないものがあった.これらのことは,DA-Rafががん抑制蛋白質である可能性を支持している. マウスの形態形成および腫瘍形成におけるDA-Rafの関与を明らかにするために,DA-RafのKOマウスを作製した.これらのKOマウスは成長が遅れ,からだが矮小であった.また平衡と行動の異常を示し,生後7-21日で死亡した.KOマウスの胎児線維芽細胞では,MEKとERKの活性が亢進していた.KOマウスの小脳は形態が異常で,外顆粒層細胞の内顆粒層への移動が起こらなかった。この小脳の異常が平衡と行動の異常の原因であると考えられる.また心臓では左心室の肥大がみられた.一方,肺胞の細胞ではMEK活性が亢進しており,肺胞形成が進行しなかった.KOマウスでは肺出血が起こり,これが早期に死亡する原因であると考えられる.このDA-Raf KOマウスと活性化K-Rasノックインマウスを交配させて得た子孫を解析して,DA-Rafのがん抑制機能を検証する. DA-Rafと同様に,DB-RafとDC-Rafも活性化Rasに結合し,Ras-ERKカスケードに拮抗作用を示すことを明らかにした.またDB-Rafには,特徴的な細胞突起を形成する作用がみられた.
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