2008 Fiscal Year Annual Research Report
多様な利他行動発現を制御する神経科学的メカニズムの解明
Project/Area Number |
20019033
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
磯田 昌岐 The Institute of Physical and Chemical Research, 象徴概念発達研究チーム, 副チームリーダー (90466029)
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Keywords | 意思決定 / 行動企画 / 利他行動 / ニホンザル |
Research Abstract |
実社会における意思決定のプロセスは、行動環境を共にする他者の存在や、他者がおかれた状況、あるいは他者が行う行動によって影響を受けることが多い。本課題は、そのような例として利他行動に注目し、霊長類サルを対象としてどのような状況下で利他行動が発現されるか、さらにその神経生理学的メカニズムを明らかにすることを目標とする。今年度は特に、痛みを受ける他者への共感が利他行動の誘発因子となるのではないかという仮説のもとに行動実験を計画し遂行した。 対座する2頭のニホンザルを同時に用いた。一方のサルの前には2つの異なる色のターゲットが点灯し、黄色のターゲットを選択すれば眼前のサルにair-puff刺激が加えられるが、緑色のターゲットを選択すれば眼前のサルはair-puff刺激を免れることが出来るようにした。もしもサルが有意に高い頻度で緑色のターゲットを選択すれば、一種の利他行動と考えることができる。しかし、このような条件設定で実際の行動を観察する以前に確認すべき点があると考えられた。すなわち、1頭のみの条件下で、すなわち動作選択の結果によっては自身にair-puffが加えられる場合に、サルはair-puffを回避する選択をすることが出来るかどうかである。自身へのair-puffを回避する選択すらできなければ、それが他者に向けられた場合に利他的選択をすることなど不可能と思われるからである。興味深いことに、1頭の条件下ではサルはair-puffを回避する選択をすることができなかった。しかし、いずれのサルも、正しい選択をすれば報酬としてジュースがもらえるという状況下では速やかに学習が成立した。これらの結果は、学習成立過程における報酬と罰の果たす役割が大きく異なることを示唆し、罰だけでは学習が成立しないか、あるいは成立が非常に困難であることを示唆している。
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