2008 Fiscal Year Annual Research Report
脳損傷後の機能回復:分子からシステムまでの統合的研究
Project/Area Number |
20019042
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
肥後 範行 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 脳神経情報研究部門, 研究員 (80357839)
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Keywords | 精密把握 / 運動皮質 / 巧緻動作 / 運動訓練 / 脳機能イメージング / リハビリテーション / 遺伝子発現 / 皮質脊髄路 |
Research Abstract |
人に近い脳と筋骨格構造をもつマカクザルをモデル動物として用い、第一次運動野損傷後に見られる脳活動の変化を調べた。イボテン酸を用いて第一次運動野の指領域を破壊すると、直後から重篤な運動麻嫌が生じるが、上肢運動訓練を行うことで、指の独立した運動を含む上肢運動機能の回復が見られた。陽電子断層撮影(PET)を用いて巧緻動作中の脳活動イメージングを行ったところ、損傷前は第一次運動野に高い活動が見られたのに対し、運動機能回復後は運動前野腹側部に高い活動が見られた。このことから、第一次運動野損傷後の回復過程において、運動前野腹側部で機能的代償が生じたと考えられる。運動皮質損傷後の機能回復に関わる分子機構を調べるために、霊長類の運動野に特異的に発現する遺伝子群を調べた。その結果、細胞接着にかかわるタンパクであるSPP1(Secreted phosphoprotein 1)が、マカクザルの第一次運動野に多く発現していることを明らかにした。さらにSPP1遺伝子発現細胞の分布を調べたところ、マカクザル運動皮質5層に存在する大型の錐体細胞、すなわち皮質脊髄路の起始細胞において特異的に顕著な発現がみられることを明らかにした。一方、ラットやマーモセットなど手の巧緻動作の基盤となる皮質脊髄路の発達が乏しい動物種の運動皮質ではSPP1の発現は見られなかった。このことから、SPP1が霊長類において特に発達している皮質脊髄路の機能または構造に関係しており、皮質損傷後の運動機能回復関わる遺伝子の一つである可能性が考えられる。
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