Research Abstract |
文産出時の統語構造構築過程を探るために, 行動指標を用いた実験及び視線計測を用いた実験を実施した. さらに, 文産出時との比較を念頭に, 文理解時の統語構造処理に関する事象関連電位計測実験を実施した. (1)文産出時の統語構造構築のメカニズムを探るため, 統語的プライミングのパラダイムを使用して, 受動文の産出実験を実施した. 日本語のように, 受動文の産出に意味論的・語用論的制限の強い言語でも, これらの要因を統制して, 対話形式で線画を描写させる課題を用いて実験を行ったところ, 統語的プライミングによって受動文の産出割合が有意に上昇した. この結果は, 文構造のコーディングレベルがメッセージの組み立てとは独立して存在する文産出モデルを支持するものであった. (2)文産出の認知過程におけるメッセージの組み立てと文構造のコーディングの関係を探るため, 視覚世界パラダイムを使用した視線計測実験を実施した. 視線の変動は基本的に表現の産出順序に連動するという先行研究の結果を追認するとともに, 産出順序とは独立して, 焦点のおかれたオブジェクトに視線が集まる効果も観察された. この結果も, メッセージの組み立てと文構造のコーディングが独立したレベルにあると考えるモデルを支持するものである. (3)文理解における語順及び格助詞の処理過程を検討するため, 事象関連電位計測実験を実施した. 三項動詞を使用して, ニ格名詞句とヲ格名詞句の語彙特性を無生名詞句に統制し, ニ格>ヲ格語順とヲ格>ニ格語順で提示された名詞句を読む際の事象関連電位を計測した. その結果, ニ格>ヲ格語順のヲ格名詞句を読む際に, ヲ格>ニ格語順のニ格名詞句を読む際と比較して, 左半球前頭部に有意な陰性成分の増加が観察された. この結果は, ニ格名詞句とヲ格名詞句を無生名詞句として含む三項動詞文においては, ヲ格>ニ格語順が規範的であることを示唆するものであった.
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