2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20028006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 徹 Kyoto University, 基礎物理学研究所, 研究員 (70467405)
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Keywords | 理論核物理 / 格子QCD計算 / カイラル対称性 / メソン・バリオン結合定数 / ストレンジネス |
Research Abstract |
1. 負パリティ核子N(1535)の研究 近年、核子スペクトルにおける正負パリティ状態間での質量縮退現象を説明するモデルの一つとして、ミラー表現を用いた線型σ模型が提唱された。もしこのモデルが本質的であれば、励起状態核子の質量の起源は、基底状態核子(陽子・中性子)のそれとは質的に異なるものである言える。これを実証する一つの手段は、励起状態核子の軸性荷電を計算することである。仮に、この描像が正しいのであれば、励起状態核子の軸性荷電はすべて小さな値となることが予想されるからである。我々は格子QCDを用いて、負パリティ核子N(1535)とN(1650)の軸性荷電を計算した。その結果、N(1650)の軸性荷電は小さな値とはなりえず、むしろ、単純なクォーク模型による計算に一致することがわかり、最も単純なミラー表現モデルを用いたパリティ縮退シナリオが実現している可能性はそれほど高くないことがわかった。この結果は論文誌に掲載済みである。 2. ストレンジセクターにおけるメソンーバリオン相互作用の研究 バリオンは世界の主要な構成要素であり、メソンはその間の力を媒介する。ゆえに、メソン・バリオン間の結合定数は、物質の構成を理解する上で、大変重要な物理量である。しかしながら、この定数を実験的に決定するのは難しく、特に、ストレンジクォークを含むセクターの結合定数はほとんどわかっていない。フレーバー対称性を仮定すれば、理論的に予言も可能だが、現実世界においては、この対称性は破れている。これらの結合定数は、中性子星内部の構造や、ブラックホール生成プロセスに重要な役割を果たす。そこで、我々は格子QCD計算を用いて、これらの結合定数を、第一原理から計算した。その結果、メソン・バリオン結合定数においては、フレーバー対称性の破れが顕著に現れていない(せいぜい10%以下である)ことをつきとめた。これらの結果は、モデル計算などにおけるインプットとして、重要であると考えられる。
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Research Products
(2 results)