Research Abstract |
本研究は, 技術記録映画に土木技術史料としての一定の評価を与え, もって1950〜60年代における大ダム施工技術の史的考察の可能性を検討しようとするものである。 この時期のダム建設技術の発展は, 施工の機械化, 岩盤処理, 遂道掘削など, 汎用性の高い基礎的な土木施工技術の水準を向上させることにもなったと評価されている。これらのダム建設の大半の場合において建設記録映画が撮影された。これまで土木史研究のために, 実物, 遺構, 工事記録書, 報告書, 図面などが史料として利用されてきたが, 建設記録映画から技術史知見を抽出しようとする試みは見られなかった。 平成20年度においては, 連続的な行為を記録した技術記録映画史料として, 1953年から1969年までに制作された発電用ダム建設記録映画の量的, 質的評価ならびに保存状況調査と検討をおこなった。その結果以下が明らかになった。 (1)100m超の堤高を有する発電用専用ダムの建設記録映画が38作品, 丸山ダムを含めると39作品が制作され, そのうち少なくとも29作品は電力会社, 土木建設会社などに分散保管されている。 (2)ダム本体工事以外にも河川転流, 仮設備, 骨材製造, 発電所建設, 湛水などほぼすべての工種が網羅的に記録されている。 (3)作業員の連続的な技術の行使が, 動きを伴って明瞭に被写されており, 大型機械の運転などは円滑であったことが理解された。こうした情報は映画以外に記録できる方法がない。 (4)坑道式発破, 柱状ブロック工法など今日では見られない過去の技術や, 竣工以前の湛水により早期発電を行ったことなどが, 文字ではなく動画として記録されており, 施工状況の把握が視覚的に可能である。その意味でも史料的価値が高い。 (5)ヘルメットや防護眼鏡などの装着, 作業員の服装や現場における機器材の配置, 動線など, 安全意識や作業環境の変化を俯瞰的に捉えることができる。
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