Research Abstract |
本研究は, 生物の社会システムの動作原理を探ることを最終目標に掲げ, 社会性昆虫であるシロアリをモデルにして,社会組織化の仕組みを解明していくことを目的とし, 20年度は下記の成果が得られた. (1) カースト分化に伴う身体(形態)の改変 : シロアリ個体が兵隊へと分化するのには,幼若ホルモン濃度の上昇が必要である. LC-MSによる定量を行うことに成功し, どのようなホルモン動態が分化を誘導するのかを評価することができた. また, インスリンなどの内分泌因子も, 兵隊の形態形成に必要であることが, 分子生物学的手法により明らかにされ, さらに, RNAiによる遺伝子の機能解析がシロアリにおいて有効であることが明らかとなった. 21年度はこれらの成果をもとに更なる解析を推進する. (2) カースト分化に伴う神経改変の分子機構 : シロアリのカースト分化では, 形態だけでなく行動も大きく変化する. 兵隊では攻撃性の上昇がみられるため, 脳内の生体アミンの定量を行った. その結果, オクトパミンの前駆体であるチラミンにカースト間の変異があることが認められ, 免疫染色法により, それらを産性するニューロンが兵隊で肥大化することが明らかとなった. 引き続き, 神経系の特殊化と行動改変の解析を進めるが, その際に有効であると考えられる行動の定量化の方法も検討された. (3) フェロモン分子によるコミュニケーションの解析 : シロアリの個体には様々な外分泌腺が存在し, 個体間相互作用において重要な役割を担う. 組織学的解析により, これらの外分泌腺のいくつかはカーストによって特殊化することが明らかとなった. また, 我々の先行研究により発見されたSOL1タンパクは兵隊のみで外分泌されるリポカリンタンパクであり, 何らかの個体間シグナルを担うことが示唆され, 他種シロアリからの単離にも成功した. (4) 社会統合の数理モデル構築 : 上記の項目で解析された要素を加味した社会進化・カースト分化のモデルをいくつか構築し, 実際の観察結果と同様の挙動を示すことに成功した.
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