Research Abstract |
運動学習において,学習者の環境に対する予期が学習過程に影響することが知られている.例えば,運動の初心者が事前に熟練者の運動の様子を観察することは,後段の学習に影響を与える.これは運動イメージを想起することで,脳内で運動をリハーサルすることができるためと考えられている.また.近年の生理学研究の知見によれば,他者が運動する様子を観察したり,その運動を模倣しようとする際には,ミラーニューロンと呼ばれる脳部位が活動することが知られている.本研究では,力覚提示デバイスを用いて未知の動的環境(回転粘性力場)を実現し,その下で,フンダムな順番に提示されるターゲットへの到達運動を課題として,運動学習を行わせる際,「熟練者の運動の様子を観察させる」群と,「観察に加え,模倣することを動機づける」群,そして「観察をさせない群」の3群に分けて運動学習を行わせた.実験の結果,観察を行う群は,しない群と比べて最終的な運動の評価指標が良好であること,ならびに,動機づけを行う群は,しない群と比べて学習初期の評価指標の向上が顕著であることを確認した.さらに,観察時の注視点と脳血流量の動態を調べた結果から,観察を動機づける群は,特にターゲットと腕運動を交互に見比べながら観察をしていることが明らかとなった.このことから,学習に先立って環境の文脈を適切に整えることで学習者の注意状態が修飾され,学習の進展に大きく影響を与えることが示唆された.
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