Research Abstract |
微細加工技術を用いて作製された細胞径より小さい微細孔(マイクロオリフィス)をはさんでその両側に細胞を固定し, ここにパルス電圧を印加することにより, 微細孔中にて接触する2つの細胞の接触点の細胞膜に一過的・可逆的な膜破壊を行い, 細胞融合を行うという新しい手法の原理・装置・応用を開発することを目的として研究を行った結果, 次の成果が得られた。 1. 2種類の細胞の懸濁液を混合してパルス電圧を印加する従来の電気細胞融合法においては, 融合の収率が非常に低かったのに対し, この研究では微細孔により作られる電界集中を利用して制御された大きさの膜電位を印加することにより数十%以上の融合収率が得られることが実証された。 2. 膜電圧が発生するのは, オリフィス内での2つの細胞の接触している部位のみであるので, 必ず1:1の融合が生じることが示された。 3. 厚さ数ミクロンの絶縁性シートに, 直径5ミクロン程度の穴を約50ミクロンのピッチでアレイ状に作製し, このシートの両側に異種の細胞を誘電泳動により配列し, 融合操作を行うと, 大量並列な融合が実現できることを示した。 4. 核の直径より小さいオリフィスを用いることにより, 核の接触を防いだ状態で融合することが可能であることを示し, さらに, その状態で一方から吸引すると, 核はオリフィスを通過できないので, 一方の細胞の細胞質のみを他方の細胞に移植できることが示された。 これらの結果により, 従来のモノクローナル抗体取得等をより効率的に行うという量的な改善以外に, 将来においてより重要となり得る, 細胞内因子・細胞内小器官の移植とそれにともなう形質転換・分化制御などの細胞内環境制御技術の開発, たとえば, ミトコンドリアの混合により生ずる雄生不稔によるF1植物作製や, 再生医療における細胞の初期化や, 分化制御などへの応用への道が拓かれた。
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