Research Abstract |
本研究では, 不活性炭素-ハロゲンおよび擬ハロゲン結合の活性化における遷移金属と典型金属の協奏作用機構に関する研究と, それに基づく新規触媒系の開発を行っている. 今年度は, ニッケル触媒によるハロゲン化アリールのクロスカップリング反応の機構について, 炭素-ハロゲン結合の切断の段階に焦点を当てて検討を行った, まず, ニッケルおよびパラジウム触媒熊田カップリング反応における速度論的同位体効果(KIE)の検討により, 酸化的付加の前段階であるハロゲン化アリールのη2配位(生成物と基質の配位子交換)に, ニッケルとパラジウムの反応性の決定的な違いがあらわれていることを明らかにした. 具体的には, ニッケルおよびパラジウムビスホスフィン錯体を触媒とする一連の熊田カップリング反応について13C KIEの測定を行った. その結果, ニッケル触媒反応ではベンゼン環の立体的に空いた部位全般に小さなKIEがあらわれており, ニッケル(0)のη2配位が不可逆的に起こることが示唆された. 一方パラジウム触媒反応ではハロゲンのイプソ位に最も大きなKIEが見られ, 炭素-ハロゲン結合の切断が最初の不可逆過程であることが分かった. 両金属の反応挙動の違いは, 逆電子供与能の違いに起因することがDFT計算によって示唆された. 一方, 我々が以前に開発した高活性ニッケル・ヒドロキシホスフィン(PO)触媒を用いた反応では, イプソ位に最も大きなKIEが, 次いで立体的に空いたオルト位にKIEが見られた. これは, 炭素-ハロゲン結合の切断が最初の不可逆過程であり, かつその遷移状態においてニッケルがベンゼン環のイプソ/オルト位にη2配位していることを示している. この結果と理論計算から, ニッケル/PO触媒の高活性の要因として, 配位子上に会合したニッケルとマグネシウムが生成物と基質の配位子交換および炭素-ハロゲン結合の切断を促進することが示唆された.
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