Research Abstract |
多くの有機分子は,その表面を炭素・水素結合(以下,C-H結合と表記)によって覆われている.そのためこれを活性化して直接変換する反応は,分子を事前に官能基化する必要がないため原子効率にきわめて優れており,有機合成反応として理想的である.そのような観点からC-H結合の直接変換反応の開発は,近年世界中で最も活発に研究されている研究領域の1つであり,不飽和化合物への付加反応や,有機ハロゲン化物や有機金属反応剤とのカップリング反応などが相次いで報告されている.しかしながら,それらのほとんどがルテニウム,ロジウム,パラジウム触媒を用いるもので,反応性の低いC-H結合を活性化するために100℃以上の比較的過酷な反応条件を必要とする.本研究では,基質の配位性元素にルイス酸触媒を作用させることによって従来不活性なC-H結合を活性化し,これを穏和な条件下,切断・変換する新しい遷移金属触媒反応の開発を行ってきた.昨年度までに開発したピリジンとホルムアミドのC-H結合活性化法から,2-ピリドンのカルボニル酸素がルイス酸触媒に配位しても,ピリジンの活性化と同様にピリジニウム種を生じ6位C-H結合をニッケル触媒によって活性化・変換できるのではないかと着想した.期待通り,NyAlMe_3触媒存在下,2-ピリドンやウラシルの6位選択的なアルケニル化反応が立体および位置選択的に進行することをみつけた.カルベン配位子を用いると,ビニルアレーンへの付加も進行して,対応する6-アルキル化体が得られた.多置換ピリドンは,天然物や医薬品など生理活性物質に多く見られる構造である.また,多置換ピリジンやピペリジンなどの含窒素六員環化合物の合成前駆体としても有用である.しかしながら,母体ピリドンに直接かつ位置選択的に有機基を導入する手法は,5位でいろいろな求電子剤と反応させるものに限られていた.したがって本反応は,2-ピリドンの6位に直接有機基を導入できるきわめてユニークな合成反応である.
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