Research Abstract |
複数成分から成る液体系の, 分子レベル或いはナノメータースケールでの構造とその動的変化は, 凝縮相系化学における基本問題の1つである。本研究は, 振動数領域・時間領域振動分光シグナルの形状に現れる, 共鳴的振動相互作用に由来する特徴を解析することにより, この問題にアプローチしようとするものである。今年度は以下の成果を得た。 (1) コヒーレント2次元赤外スペクトルの時間領域計算法について, 振動波動関数の時間発展をeigenstate-free形式で行うこと, 及び幾つかの計算ルーチンにopen MP並列化を導入することなど, 計算手法上の改良を幾つか合わせることにより, 計算時間の短縮と, 扱い得る系サイズ(振動子数N)の拡張を試みた。その結果, 水和BPTI(bovine pancreatic trypsin inhibitor, N=61)のコヒーレント2次元赤外スペクトル(rephasing, non-rephasingの両方)の時間領域計算が, 比較的リーズナブルな時間で実行できることとなった。従来はN=32程度が上限であり, 系サイズ依存性がO(N^5)程度であることを考えると, 扱い得る系のサイズを大きく拡張することができたものと考えられる。 (2) ペプチド鎖水溶液のアミドIモードと水のOH伸縮振動モードを対象に, 振動数揺らぎの特徴の理論的解析を行った。長時間領域(t=1-10ps)の振動数揺らぎがstretched exponential関数で良く近似できること, そのβ値が両者で大きく異なること, その相違は溶質の存在による溶媒ダイナミクスの有効次元数に関わると示唆されること, などが分かった。
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