Research Abstract |
複数成分から成る液体系の,分子レベル或いはナノメータースケールでの構造とその動的変化は,凝縮相系化学における基本問題の1つである。本研究は,振動数領域・時間領域振動分光シグナルの形状に現れる,共鳴的振動相互作用に由来する特徴を解析することにより,この間題にアプローチしようとするものである。今年度は以下の成果を得た。 (1) 水和tryptophan zipper 2を対象に,コヒーレント2次元赤外スペクトルの時間領域計算と,振動数揺らぎの挙動の解析を行った。水和tetraalanineの場合と同様,長時間領域(t=1-10ps)の振動数揺らぎがstretched exponential関数で良く近似できることが示された。また,そのβ値がペプチド基の水和の程度により変化することを見出した。 (2) N,N-dimethylformamide(DMF)の同位体混合液体のC=O伸縮振動モードを対象に,振動バンドの融合と強度分布の偏りを理論的に解析した。スペクトルの計算は,128分子系を対象に時間領域計算法により行った。Normal/^<13>C混合液体の場合には,両分子種のバンドは別々に現れているが,例えばモル分率χ_<normal>=0.5でも両バンドの強度比は1:1から大きく外れており,振動カップリングによって強度分布に偏りが生じていることが示された。また,normal/d_1混合液体の場合には,融合したバンドが現れ,振動カップリングの効果が顕著であることが示された。これらの振舞いは,モデル混合液体系を対象とした計算から得られたバンド形状のマップ,および実測スペクトルと比較検討を行い,良い一致が得られた。
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