Research Abstract |
白金錯体単結晶で起こる特異なフォトクロミズムの仕組みを構造的な面から解明することを目指し, 当該白金錯体を合成, 単結晶を作製し, 励起光照射下での構造解析を進めた. 研究過程での結晶化, ならびに, フォトクロミズムの再現実験において, フォトクロミズムを示さない結晶が得られることが見つかり, 調査の結果, 結晶がフォトクロミズムを示すか否かは再結晶溶液のpHに依存することを明らかにした. 具体的に述べると, フォトクロミズムを示す結晶は中性付近で得られる. ただし, 中性付近でもフォトクロミズムを示さない結晶が得られることもある. さらに加えて, 各結晶面がよく成長した単結晶では, このフォトクロミズムに, 十字に領域を4分割したうち相対する2領域のみ色変化が見られる, ドメイン構造があることを明らかにした. ドメイン構造を持つフォトクロミズムばこれまで知られていなかった. 当初計画の励起光照射下での構造解析については, タングステンランプ(50W)光を照射しながらX線回折実験を行い, 構造解析を行った. その結果, 結晶学的データや結晶構造に, 室内灯下での光定常状態での解析結果との差異が認められないことを明らかにした. しかし, この光照射下での実験から, 問題点として, 長時間励起する場合, 弱い室内灯での励起と強い光源を用いた励起では, フォトクロミズムの挙動が異なることが新たに明らかとなった. 前者は青色への色変化が維持されるが, 後者は青くなった後, 光照射下にもかかわらず徐々に無色に戻る. フォトクロミズムと励起光強度や励起波長との関係を, 今後精査する必要がある. 一方で, 上述のまったくフォククロミズムを示さない結晶やドメイン構造を持つ結晶についても構造解析を行った. その結果, フォトクロミズムを示す結晶と比べて, 特に結晶構造に違いがみられないことを明らかにした. フォトクロミズムが構造の変化を大きく伴う可能性が小さいことを示唆する知見が得られた.
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