Research Abstract |
超高真空走査トンネル顕微鏡(STM)を使ってC70分子のSi(111)-(7×7)清浄表面上での積層過程の詳細な調査を行って, C70はVolmer-Weber型積層形態をとることを明らかにした. これは, これまでに研究したC60やM@C82とは異なる積層形態であって, C70の分極率がC60より高く, M@C82系に比べてクーロン斥力が小さいために, 凝集力が大きくなることから生じた現象であることを示唆した. また, C70を積層後, 100℃で12時間以上加熱することにより最密表面の形成に成功した. Si(111)-(7×7)清浄表面でのC70の最密表面形成に関する成功例はこれまでなく, 今回が初めての成功である. また, 異方的な形状であるC70分子での最密表面形成に成功したという点で非常に重要である. 得られた最密表面の構造形態を詳細に調べるとともに, STM探針からの電界印加によって, 分子スケールでの空隙形成と, 空隙サイズの精密な制御を行った. C70最密表面はC60最密表面より多くの歪みを含んでおり, 歪み部分への電界印加は, 一度に20分子以上の空隙形成を引き起こすことを明らかにした. これによって, 表面の不安定性を調べる手段として, 探針からの電界印加が有効なプローブ手段となることを示した. このように, C70最密表面で人工的にナノ新物質構造を作りだすことができることを示した. この成果は, 本研究課題の直接目標とするものであり, この方法を多様なフラーレンに適用することによって新規なナノ物質が作製できるものと期待される. 得られた成果は, Applied Physics Letters(APL)誌に掲載された. 芳香族分子であるピセンを使った高性能薄膜電界効果トランジスタ(FET)を作製し, このトランジスタが非常に良いpチャネルFET特性を示すとともに, 酸素によってFET特性が大幅に向上する酸素センシング効果があることを明らかにした. 酸素による特性向上は, Multiple shallow trap and releaseモデルに基づいた解析から, トラップの劇的な減少によって生じていることを明らかにした. さらに, ピセン結晶の空間にアルカリ金属原子を挿入することによって, 金属化と20K付近での超伝導転移を実現することに成功した. この超伝導転移温度は, フラーレン系を除くと有機超伝導体の世界記録である. これらの研究成果に関連して, J.American Chemical SocietyならびにAPL誌に成果を報告するとともに特許出願した. また, 超伝導の成果は現在論文投稿中である.
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