2009 Fiscal Year Annual Research Report
新奇量子磁性を示す遷移金属水酸塩化物の純良単結晶作製と磁気相関の解明
Project/Area Number |
20046012
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
鄭 旭光 Saga University, 理工学部, 教授 (40236063)
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Keywords | 新規量子磁性 / 幾何学的フラストレーション / 均一系での秩序と非秩序の共存 / 水酸塩化物 |
Research Abstract |
磁気的相互作用が均一でも幾何学的空間配置に起因してフラストレーションが生じ得る。最近、これら構造の新奇磁性が注目されている。Harrisらによって4面体スピン配置をもつ希土類強磁性体パイロクロアHo_2Ti_2O_7においてスピンアイスという従来予想外の状態が報告され、また同物質系の反強磁性体では量子液体状態の可能性が示唆され、これら均一結晶系での新しい量子相の性質が強い関心を集め、磁性研究のもっとも活発なトピックの一つになっている。 申請者は研究開始前年度に銅水酸塩化物-Cu_2(OH)_3Cl(鉱物名clinoatacamite)が新しい幾何学的フラストレーション磁性物質であることを発見し、TN=18.1Kで一旦全スピンが長距離反強磁性に転移しながら、6K直下でスピン揺らぎ状態に転じ、更により低温では長距離秩序とスピン揺らぎ状態の共存状態へ転移し、この共存状態が20mKでも続くという非常に不思議な連続相転移を観察した。このdeformed pyrochlore構造は他の水酸塩化物M_2(OH)_3X(M=磁性イオン、X=ハロゲンイオン)に広く存在していることをX線構造解析によって得たことから、本研究はこの新しい幾何学的フラストレーション系を系統的に調べ、新奇量子相の解明と共に、磁気秩序とスピン揺らぎの共存の機構解明を研究目的とした。 研究成果として多くの水酸塩化物M_2(OH)_3Xの新規物質を合成し、豊富な磁性を発見した。例えばコバルトイオンの水酸塩化物Co_2(OH)_3Clではスピン揺らぎを伴った強磁性状態が見られた一方、Ni_2(OH)_3Clではダイナミックな反強磁性秩序という既存の理論では説明できない磁気秩序を見出した。これらの新物質において磁性が多彩であり、また、四面体の僅かな歪みの変化で磁性が劇的に変わる。スピン液体状態と反強磁性秩序の共存を示したCu_2(OH)_3Cl、スピン揺らぎと磁性秩序の共存を示したCO_2(OH)_3Cl、新奇なダイナミックな反強磁性秩序を示したNi_2(OH)_3Clと合わせて、本水酸塩化物シリーズにおける量子状態と新奇秩序がフラストレーションの物理に貢献しており、内外において他の研究グループによる後続研究も続けられている。
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