Research Abstract |
真社会性昆虫の一大グループであるシロアリ類が示す社会性のうち,特筆すべき事象として,形態が極めて特殊化したソルジャーの存在が挙げられる。現生のシロアリ種のほぼ全てで,それぞれ特徴的な形態をもつソルジャーが存在するが,どの種でもワーカーからの2回の脱皮を経て分化する。ソルジャー分化は,体内の幼若ホルモン(JH)量の上昇に応じて引き起こされる。したがって各個体には,ホルモン量に応答して発生を切り替えるスイッチ機構がなくてはならない。本研究は,このスイッチ機構を明らかにすることを目指し,シロアリの姉妹群であるキゴキブリおよび祖先的・派生的なシロアリ種を選定し解析する。本年度はヤマトシロアリ・ネバダオオシロアリ・タカサゴシロアリを対象として,昨年度に確立されたJH投与による人為的なソルジャー分化誘導実験系を用いて,(1)JH量の調節因子およびインシュリン経路に関わる遺伝子の同定と発現量解析,および(2)RNAi法を用いた遺伝子機能解析実験系の立ち上げを行った。(1)では,昨年度に同定された各遺伝子の発現解析を行い,特にインシュリン受容体遺伝子の発現パターンが,ヤマトシロアリとタカサゴシロアリで異なる可能性が示された。プレソルジャー分化に伴う特異的な形態形成が大きく異なる(前者は頭部や大顎の肥大化,後者は噴出器官の形成と大顎の退縮)ことが影響していると考えられる。(2)については,二本鎖siRNAのインジェクションによる遺伝子発現や形態形成への影響を調べることが出来る実験系の立ち上げを行った。タカサゴシロアリを用いて,JH処理後にセルラーゼ遺伝子および形態形成遺伝子のノックダウンを効果的に引き起こすことができる実験系を作製することが出来た。今後は,作製された実験系を用いて,各種で同定されたJH関連遺伝子の機能推定を行っていくことが出来ると考えられる。以上の結果の一部は,原著論文にまとめると同時に,第11回日本進化学会,第69回日本昆虫学会,第57回日本生態学会にて発表した。
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