Research Abstract |
固体材料の塑性変形の基礎メカニズムである転位を素欠陥とし,その素欠陥と素欠陥の相互作用, および素欠陥と結晶粒界や表面・界面といった周囲欠陥との相互作用で特徴づけられる塑性物理現象を解明し,新たな塑性物理学の学理の構築を目的としている.本年度では,ナノインデンテーションを実施する多結晶試料の粒界の結晶学的考察を主として実施した.まず,結晶方位解析システムの構築として,設備備品として購入した結晶方位分析装置(OOIM5.0)を走査型電子顕微鏡(JSM-6510)のポートに設置し,菊池パターンを用いた結晶の表面方位解析システムの構築を行った.昨年度に実施した無酸素銅の再結晶処理後のサンプルを用いて結晶方位分析を実施した結果,再結晶過程で得られた直線上の粒界はすべて対称傾角粒界Σ3a({111}面)の最も安定な双晶であることがわかった.集束イオンビーム加工機(FIB)のエッチングにより双晶の傾き角を直接測定し,双晶を含む2結晶の完全な結晶学的特性を明らかにした.つぎに,より明確な粒界・転位相互作用の挙動を把握するために,FIBによる微小2結晶粒試験片の試作を行った,押込みを実施する粒に隣接する結晶粒に表面という面欠陥を導入し,粒界にパイルアップした転位による内部応力が隣接結晶からの転位の射出を意図的に誘導する試料を,マイクロ加工技術を駆使して作製した.その試作過程で,側面に表面を設けたエッジ部の"だれ"を解決する必要性がわかった.また,計算力学的な考察として,原子論的シミュレーションによる粒界と転位の相互作用評価を行った.最小エネルギー経路探索手法であるNEB法,分子動力学シミュレーション,第一原理計算の手法を用いて,実験で対象とする双晶境界Σ3a近傍の転位の挙動についてエネルギー論的な考察を行った結果,単結晶の転位射出のパイエルスポテンシャルよりも十分大きな活性化障壁のあることがわかり,Σ3aからの転位の射出の可能性が著しく小さいことを明らかにした.
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