2011 Fiscal Year Annual Research Report
反転対称性の破れに起因する表面ナノ構造体の巨大スピン分裂バンド構造
Project/Area Number |
20244045
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂本 一之 千葉大学, 大学院・融合科学研究科, 准教授 (70261542)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 竜樹 金沢大学, 理工研究域数物科学系, 教授 (30272941)
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Keywords | スピン軌道相互作用 / スピン分裂電子バンド / 角度分解光電子分光 / スピン分解光電子分光 / 第一原理計算 |
Research Abstract |
スピン軌道相互作用と空間反転対称性の破れによって固体表面で生じるラシュバ効果はこれまで、そのスピン分裂の大きさは詳細に調べられてきたものの、ラシュバ効果の完全な理解に不可欠であるスピン偏極電子バンド中のスピンの向きに関する研究はなかった。自由電子的な表面準位と巨大ラシュバ効果を有するビスマス吸着銅(111)表面の電子状態を高分解能角度分解光電子分光とスピン分解光電子分光を用いて詳細に調べ、実験的に得られた同表面のラシュバスピンの向きなどを第一原理計算と合わせることによって、ラシュバスピンの向きが原子核近傍の電荷分布の非対称性によって決まるをもとめた。この結果は、ラシュバスピンの向きを示すラシュバパラメータの正負の符号が実空間における表面準位の局在性に関する情報を与えることを意味していることから、得られた結果がラシュバ効果だけでなく吸着子-基板間の相互作用など吸着系に関する他の知見をも与えることを示している。 シリコン(110)表面にタリウムを1原子層吸着させるとC_<1h>対称性を有するTl/Si(110)-(1×1)表面が形成される。C1h対称性を有する表面が特異なラシュバ効果を発現する可能性があることからこの表面のスピン分解電子構造を高分解能角度分解光電子分光とスピン分解光電子分光を用いて測定した。その結果、これまで報告のない擬一次元的なスピン構造を有することがわかった。 Tl/Si(111)-(1×1)表面にタリウムをわずかに追蒸着すると、金属的な電子バンドが表面ブリルアンゾーンのK点に現れることを角度分解光電子分光によりもとめた。また、正・逆スピン分解光電子分光を用いて、スピンが表面垂直方向に向いていること、K点とK'点でスピンが逆向きであることをもとめた。この結果は、この表面上で後方散乱の確率が非常に低いスピン流が発現する可能性があることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載したスピン・角度分解光電子分光を用いたC_<1h>対称性を有する表面上での特異なラシュバスピンの観測のみでなく、後方散乱の確率が小さく、高効率スピン流が期待できる半導体基板上のスピン偏極金属電子バンドを観測した。また、スピン流制御に不可欠であるラシュバスピンの向きが原子核近傍の電荷分布の非対称性によって決まることを明らかにしたことは計画以上の進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
擬一次元ラシュバスピン構造を有するT1/Si(110)-(1×1)表面上と、電子ドープによってスピン偏極した金属的な電子バンドを有するTl/Si(111)-(1×1)表面上でのスピン偏極電子の散乱過程を走査トンネル顕微鏡で調べる。それにより、特異なラシュバスピンによる、特異な散乱過程を解明する。また、Si表面上に作製したAg薄膜にタリウムを蒸着することによってタリウム単結晶が形成されることを見いだした。タリウムはスピン軌道相互作用が大きいことから特異なラシュバ効果が期待できることから同単結晶のスピン・電子状態を光電子分光により測定すること計画している。
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Research Products
(7 results)