Research Abstract |
KCuGaF_6は我々が発掘したS=1/2の1次元反強磁性体で,外部磁場を加えると,gテンソルの交替と交替するDzyaloshinsky-Moriya相互作用のために,外部磁場に垂直な交替磁場が発生する。そのような系は量子sine-Gordon模型で記述できる。今年度は量子sine-Gordon模型が予言するsoliton励起,breather励起の熱力学特性への効果を検証する目的で,KCuGaF_6の磁場中比熱測定を^3He冷凍機を用いて0.35Kまで温度範囲で行った。そして,有限の磁場誘起ギャップの存在を確認した。また,SU(2)対称性を仮定した量子sine-Gordon場理論による比熱の計算結果を実験結果と比べ,実験結果が見事に再現できる事を示した。更に,この解析からsoliton励起のエネルギーが,量子sine-Gordon場理論が予言する磁場の2/3乗に比例する事を確認した。これらの結果から,KCuGaF_6の熱力学特性が量子sine-Gordon場理論で矛盾なく美しく記述できる事を示した。 Cs_2Cu_3SnF_<12>とRb_2Cu_3SnF_<12>は我々が初めて合成したS=1/2籠目格子反強磁性体であり,また現在迄知られているS=1/2籠目格子反強磁性体の中で,唯一大型純良単結晶が得られる物質である。昨年度には磁気測定によって,交換相互作用の大きさと評価した。本年度はまず1~2gの大型単結晶育成を試み,成功した。次に基底状態がシングレット状態のRb_2Cu_3SnF_<12>について中性子非弾性散乱実験を行い,明瞭な磁気励起を観測した。これはS=1/2籠目格子反強磁性体の磁気励起を観測した最初の実験例である。本実験によって,基底状態のスピン状態(風車状のValence-bond-solid)が検証でき,相互作用が強くても磁気励起の分散が大きくない事,反対称相互作用であるDzyaloshinsky-Moriya相互作用の効果などが明らかになった。S=1/2籠目格子反強磁性体の基底状態と励起状態は強い幾何学的フラストレーションと量子揺らぎの為に,従来の磁性体には見られない大変エキゾチックなものである事が理論的に予言されているが,統一的な見解は依然として無い。実験的には純良な単結晶が得られる物質が無く,研究は遅々として進んではいなかった。本研究成果はその突破口を与える成果と云えよう。本成果はNature Physicsに投稿し,閲読者から大変positiveな意見を頂いている。出版は近いと思われる。
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