2008 Fiscal Year Annual Research Report
シナプス前制御に基づく神経情報処理の数理モデル化とその工学応用
Project/Area Number |
20246026
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
合原 一幸 The University of Tokyo, 生産技術研究所, 教授 (40167218)
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Keywords | ソフトコンピューティング / 脳・神経 / モデル化 / 生体生命情報学 / 数理工学 |
Research Abstract |
本研究はごく最近実験的に見い出されたシナプス前制御を対象として数理モデルを構築し、その理論解析を通してシナプス前制御の神経情報処理機能を明らかにしようとするものである。 本年度は理論的研究の基盤を築くことを主たる目的とし、シナプス前制御に関する現時点での生理学的・解剖学的知見の収集および整理を徹底的に行い、また基礎的なシミュレーションを行った。 シナプス前シナプス結合に関してはまだそれほど多くの知見が得られているわけではないが、重要な点はこの構造が存在することにより、見かけ上"ひとつの神経細胞(ニューロン)は一種類のシナプス結合しか持たない"というDaleの原理が破られることである。例えば、ある興奮性神経細胞から伸びたシナプスの一部が別の抑制性神経細胞の軸索またはシナプス結合部に結合することで、一つの神経細胞の発火が結合先によって正反対の効果をもたらすことがおこりえる。実際に我々は数値シミュレーションにより、Daleの原理が破られている場合と破られていない場合とでは、ニューラルネットワークの挙動が異なることを確認した。また、通常のシナプス結合とシナプス前シナプス結合とでは関与する神経伝達物質が異なることも示唆されており、脳は必要に応じてこれらを使い分けている可能性もある。 また、皮質求心性アセチルコリン等によるシナプス前修飾についても重要な知見が幾つか得られている。例えば、アセチルコリンの投射によりシナプス結合の強度が大きく減少することなどが報告されている。入力、ニューロン間の結合パターンを固定したまま、結合強度の大きさを変数としてシミュレーションを行った結果、ネットワーク構成が同じであっても、結合強度の大きさが変わることで全く異なる挙動をネットワークが見せることが示された(例えばカオス的な挙動から、結合強度を弱くしていくことで完全に周期的で多数のニューロン群がシンクロして発火する状態へと変化する)。 前シナプス修飾により、脳はこれまで考えられていた以上に豊富なモードをもち、状況に応じてそれらの間を遷移している可能性が示唆された。
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Research Products
(6 results)